第3章
18
長い沈黙が続いた。しかし実際は、1分程度にしかすぎない。
殿塚が顔を上げて総理を直視した。
「分かりました。自由党は私の責任でまとめます。法案の国会通過に協力しましょう」
総理は思わず背筋を伸ばした。殿塚は、表情も変えず続けた。
「さっそく党に持ち帰って出来る限り早い時期に、石崎党首との会談をセットします」
「ぜひお願いします」
総理は無意識の内に頭を下げていた。
ドアの外で声が聞こえ始めた。秘書がしきりに外を気にしている。マスコミが総理の姿が見えないことに気づいたのだ。
「部屋を出てください。私は後ほどゆっくりと」
殿塚の言葉に総理はドアに向かって歩いた。
わずか10分余りの会談だったが、これでいいのかと思うほど上手くいった。
道州制とセットで考えると言ったとたん、殿塚の顔つきが変わった。殿塚が道州制の導入を長年訴え続けているとは聞いていたが、あれほどだとは思わなかった。
いや、これはあの男だけが考えているのではない。時代の流れだ。国が巨大化し、国民の意識も広がった。乗り気でないのは官僚と選挙に弱い政治家だけだ。いや、もっとも手ごわいのは東京都民だ。彼らをどう説得するかがカギになるだろう。
「だが思ったより、上手くいくかもしれない」
総理は低い声で呟いた。