森嶋はしばらく、弾むような足取りで歩いていく理沙の後ろ姿を見ていた。
気がつくと小雨が降り始めている。慌ててコーヒーショップを出て、マンションの中に入った。
部屋にはロバートはいなかった。
メモすら置いていない。ロバートのいた痕跡はゼロだ。あれは夢だったのかと思わせるほどだ。
ゴミ箱を見ると、ビールの空き缶が三つ入っている。一つ増えているということは、たしかにロバートは昨夜ここに泊り、出ていったのだ。
パソコンを立ち上げてテレビニュースに切り替えた。
〈午後7時12分、関東地方に地震がありました。震源地は東京湾北部です。震度4の地域は以下の通りです。この地震による津波はありません〉
アナウンサーの言葉とテロップが流れていく。
〈さて、投資ファンド、ユニバーサル・ファンドによる日本国債買い付けは、すでに10兆円を超えています。この件に関して、能田総理は会見を行い、その程度であれば外資の導入はむしろ歓迎するとのコメントを発表しました。しかし、その動向は以後も注意深く見守るとの意を表明しています〉
森嶋はパソコンを切った。
(つづく)
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