母親だけに向けられていた暴力は、次第に祖母や父親にも向けられるようになり、ついに包丁を持ち出して家族を脅したこともありました。そのとき、恐怖を感じた母親が警察へ通報しようとしたところ、祖母と父親は「家族の恥を世間にさらせるか」と言って、断固としてさせませんでした。

 このような生活は、河野さんが30代になったつい最近まで続いていました。

 家庭内暴力があると、引きこもりへの適切な対応は格段に難しくなります。暴力が慢性化すると、家族だけで止めることは容易ではありません。家族が暴力に耐える姿勢を示すと、ますますエスカレートしてしまうこともあります。家族はどうすればいいのでしょうか。

「密室化」と
「リミットセッティング」

 対処のポイントは、「密室化」と「リミットセッティング」です。

◎密室化

 家庭内暴力が「密室化」するのは、相談先が分からないことも1つの要因です。しかし、家族が世間体を気にしたり、本人からの報復を恐れたりして、外部とはつながりたくない、つながれないからという場合も多いようです。

 河野さんの事例では、包丁を持ち出して脅す事態になっても、家族は周囲への羞恥心から家庭内暴力をひた隠しにしていました。こうなると、子どもは、「親に暴力を振るっても制裁を受けない」と確信し、暴力によって要求を通すことができるという学習さえしてしまい、悪循環に陥っていきます。“密室化”は極力避けなければなりません。

◎リミットセッティング

「リミットセッティング」とは、荒れる本人の行動や言動に対して、限界基準を設定することをいいます。家族間で、「ここまでは受け入れるが、ここからは受け入れない」という限界の線引きを、しっかりしておくということです。

 当然、暴力を受け入れるところに限界を設定してはいけません。家庭内暴力では、暴力そのものがコミュニケーションの機能を持ってしまっています。「リミットセッティング」がないと、本人とのコミュニケーションが徐々に家庭内暴力へ進行してしまうのを、阻止できないのです。

 河野さんのケースでも、物を壊すなどの間接的な脅しから、突き飛ばす、首を絞めるなどの直接的な暴力に移行しています。この心理的背景には、主に母親に対する「退行現象」(赤ちゃん返りなど)があったといえます。

「退行現象」といっても、本当に赤ちゃんのように甘えるケースもあれば、自分の要求をなんとしても通す“甘え”などもあります。いずれの場合でも、引きこもり状態において退行現象が出現してくると、小遣いの要求やゲームの買い出しの要求など、難しい要求が出現してきます。そして、その要求を断ると暴力が出現し、エスカレートしていくことも多いといわれています。