デジタル化がもたらす新たな市場創出と既存のサービスとの葛藤。それが最も端的に現れるのがタクシー業界だ。IT業界を中心にライドシェアを解禁させようとする動きに、タクシー業界は「ライドシェアは白タク行為だ」と猛反発。そんな中、中国でライドシェアを普及させてきた配車プラットフォーマー最大手の「滴滴出行」(以下、滴滴)はソフトバンクと提携し、日本で版図を広げる。「ライドシェアに押し切られてしまうのか」と、タクシー業界は不安をあらわにする中、タクシー最大手、第一交通産業(本社・福岡県北九州市)が見据えるものは何か。田中亮一郎社長が語った。(ジャーナリスト 姫田小夏)
滴滴が日本に進出
きっかけは?
――昨年9月の大阪を皮切りに、アプリ「DiDi」を使った滴滴の配車サービスが東京、京都、兵庫、北海道、福岡で始まっています。
当初、日本での事業展開を考えていた滴滴からアプローチがあったのは2017年でした。「訪日する中国人観光客が増えているが、滴滴の顧客は日本でサービスが使えない」、そんな相談から始まったのです。
当時、日本のインバウンド市場は“中国系白タク”の横行で頭を抱えていたこともあり、当社は前向きな検討を続けました。途中、滴滴から「ソフトバンクのシステムでやりたいので、時間がほしい」という軌道修正が入り、当社との提携話は、いったん保留となりました。現在はソフトバンクが出資する「DiDiモビリティジャパン」(本社:東京都)がこの事業を運営しています。
「海外アプリとの連携」は日本政府の意向でした。今年度中には、サービスエリアを全国13都市にまで広げる計画で、現在提携するタクシー会社は90社にまで広がっています。当社もそのうちの1社です。
――「自家用車に他人を乗せて報酬を得る」というライドシェアですが、中国ではここ数年で大きく発展しました。
そうですね。しかし現在、中国のライドシェアは結局、“タクシー”とほとんど変わらなくなってしまいました。北京の場合は、車両を登録させて市がこれを管理しています。その一方で、地方に行けば白タクが存続できる地域もあります。「全国一律、同時に普及」というわけにはいきませんね。