元財務大臣が十代の娘に語りかけるかたちで、現代の世界と経済のあり方をみごとにひもといた世界的ベストセラー『父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』(ヤニス・バルファキス著、関美和訳)が話題だ。
ブレイディみかこ氏が「近年、最も圧倒された本」と評し、佐藤優氏が「金融工学の真髄、格差問題の本質がこの本を読めばよくわかる」と絶賛、朝日新聞(「一冊で仮想通貨や公的債務の是非、環境問題まで網羅している」「知的好奇心を刺激するドラマチックな展開に、ぐいぐい引き込まれる」梶山寿子氏評)、読売新聞、毎日新聞、週刊文春等、多くのメディアで取り上げられ、経済書としては異例の13万部のベストセラーとなっている。その魅力はどこにあるのか? 参院選を前にして、ぜひ多くの人に読んでほしい一節を紹介する。
参院選は史上最低の投票率に?
参院選の投票日が今週日曜、7月21日にせまっている。年金問題あり消費増税ありとさまざまな問題が騒がれているにもかかわらず、NHKは世論調査と過去のデータを照らし合わせた結果、投票率は50%台前半と史上最低レベルになるのではないかと予想する。
この数字の低さには、森友・加計問題に始まり、厚労省の統計不正問題、老後生活資金の報告書について「もうなくなった」(森山国対委員長)とした2000万円騒動など、立て続けに起こる政治のモラルハザードを前にして、「自分がなにをしても変わることじゃない」といった、ある種の無力感を覚えている人が増えているのかもしれない。
だがそんな気持ちが心をかすめることがあるようなら、ぜひ読んでいただきたいのが『父が娘に語る美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』だ。
ギリシャ発の同書は、ヨーロッパを中心に世界的なベストセラーとなっているが、日本でもいままさに大きく話題が広がっている。著者のヤニス・バルファキスの「実務家」ならではの地に足のついた論理展開と、経済評論家の語るそれとは異なる「生きた経済」の姿が、多くの日本人の目に新鮮に映っているようだ。
実際、著者は2015年に経済危機にあったギリシャで財務大臣として奮闘し、辞任して以降もDiEM25(「欧州に民主主義を運動」2025)という組織を立ち上げ、再生可能エネルギーへの大規模公共投資や全ヨーロッパ人の雇用を保障するスキームなどを軸とする「ヨーロッパ・ニューディール」という政策を掲げ、ヨーロッパ横断的にしぶとく政治活動を行なっている。
同書によると、経済は、人々の期待や予想が「自己成就」してしまう性質を持っている。つまり経済には、人々が暗い期待を持てば悪いほうに傾き、明るい期待を抱けば明るい方向に向かうメカニズムがあるという。
バルファキス自身、幾度も挫折を味わいながらも「明るい期待」を抱き続け、欧州に真のデモクラシーを実現するという理想に向かって動き続けている。本書でもバルファキスが示している、粘り強く希望に向かう姿勢を前にすると、なんとなくの「無力感」にはなんとしても抗わなくてはという思いに駆られる。