昇格の約束が空手形で終わることも…
引き留めに応じた場合の2つのリスク

 転職をしなくても希望の仕事ができて、給与も上がるのであれば、残留するのもいいだろうと方針転換を図る人は少なくないでしょう。ただし、待遇改善を約束してもらったとしても、履行されないこともあるのが「引き留め」の恐ろしいところです。

 先述の2人の候補者のうち、執行役員への昇格を提示された方は、約束通りのポジションに就くことができました。しかし一方で、海外ビジネスの仕事を希望していた候補者はその後、半年以上経過しても「いろいろな事情があって…」という理由で異動も昇給もされないままになっています。

 つまり、会社は必死で退職希望者を引き留めようとしますが、引き留めで提示された昇格や昇給の約束が空手形で終わることもあるのです。約束された条件がちっともかなえられないので、しばらくたってから再び転職活動を始める候補者も実際にいます。

 会社から退職を引き留められたとき、最終的に転職するか残留するかは個別に判断するしかありませんが、引き留めに応じる場合はこのようなリスクがあることは認識しておくべきでしょう。

 もう1つ、引き留めに応じる場合の大きなリスクがあります。それは経営者に「裏切り者」と認識されてしまうことです。特に、離職に慣れていない中小企業のオーナー経営者はこのリスクが高いです。

 社員として働いている人はあまり気付かないと思いますが、経営者は社員に辞められると少なからず傷つきます。オーナー経営者にとって会社は自分そのものなので、自分を否定された気持ちになるからです。

 それでも現在はどの企業も深刻な人手不足ですから、優秀で重要な社員であればあるほど、経営者は傷つけられた気持ちを押し隠して引き留めにかかります。

 しかし、経営者の立場で考えてみると、近しい社員から真剣に「退職します」と切り出されたら、その後の信頼関係に影響が出ないとはいえません。引き留めはするものの「いつまた辞めると言いだすかわからない」と警戒するのは当然です。しばらくは最重要のポジションは任せないでしょう。

 経営者からの「裏切り者認定」が解除されるには、それなりの時間が必要です。退職を引き留められて残留した人は最終的に辞めて転職することが多いのですが、背景にはこのような事情があるのだと思います。