作田久男氏は、創業家以外から初めてオムロン社長に就任したサラリーマン出身の経営者である。現実を直視し本質に鋭く斬り込む行動力は、自分の生きざまを貫き続けてきた人だけが持つ、いぶし銀の迫力に富んでいる。そこには何かにおもねる忖度はない。あるのは、時代の変化を見据え、常に問い続けてきた「自分の存在価値」そのものだ。
そんな作田氏は、必ずしも「結果」がすべてではないと語る。ミッション(何をやりたいのか)、ビジョン(どのように実現するのか)、バリュー(なぜやるのか)を明確にし、それを極めようとする「プロセス」こそ、自分の存在価値を示すのに重要だと言う。
オムロンでは、21世紀にふさわしいグローバル企業になるための基盤を企業理念やガバナンスの根本から整備し、画期的な後継者選びの方法と相まって、同社を新次元へと脱皮させる契機をつくった。
そしてオムロン会長退任後に託されたのは、「日の丸半導体」と呼ばれるルネサスエレクトロニクスの再生だ。
日立製作所、三菱電機、NEC3社の半導体事業部門の合併で生まれ、連続赤字に歯止めがかからず倒産の瀬戸際にあった同社を、世界で戦える〝自律〟した経営体とするため、鬼気迫る生き残り策を展開。半導体製造の工程になぞらえて、「前工程=生き残り」と「後工程=勝ち残り」に分け、自分の役割を前工程と見定めて、すさまじいリストラにおいても矢面に立ち続けた。
就任2年後には、初めて純利益が黒字に転換。営業利益率も2桁に乗せた。自律への前工程を完了させてルネサス会長を退任。後任に「後工程=勝ち残り」を託し、経営の第一線から退いた。
だが、その1年後には再び請われて、日本特殊陶業の半導体事業を分離独立させた新会社、NTKセラミックの会長兼CEOに就任。すでにここでも黒字化の目処をつけている。5G時代の到来を目前に、作田流の「正眼の経営」がどのような勝ち残り策を描き、次に託すのか極めて興味深い。
オムロン、ルネサス、NTKセラミック――これらのキャリアで共通するのは、現実に真っ正面から向き合い、「自律への闘い」をひたむきに実践したことだ。その覚悟と実践の方法論は、困難な現実に直面する日本のビジネスリーダーの経営姿勢を正すだけでなく、勇気ももたらすに違いない。
創業者に共鳴した
「適者生存の法則」
編集部(以下青文字):このインタビューでは、作田さんの「経営者としての歩み」を振り返っていただきながら、経営のフィロソフィや方法論について伺います。
それは、自分の中にある何かと、一真さんの言葉がビビッと共振したということですか。 まずは、ビジネスパーソンとしての礎を築かれ、創業家以外から初めて社長に就任されたオムロンについてです。入社の経緯からして、作田さん流で面白いですね。
作田(以下略):大学4年の4月だったと思います。就職ガイド本を見て、創業社長の立石一真さんの言う「適者生存の法則」に興味を持ちました。チャールズ・ダーウィンの進化論のように、環境に適した会社が勝ち残ることだろうと想像しましたが、とにかくその真意を聞きたくて、自腹で京都の本社に行ったのです。
一真社長に直接会えると思っていましたが、そんなに甘くはありませんでした。でも、突然のアポなし訪問にもかかわらず、人事課長さんが社長との間をつなぐメッセンジャーとなり、真摯に対応してくれたのです。そこで私は、率直に「適者生存の法則」の意味を問いました。それに対し、一真さんはこう答えました。「強い者だけが勝ち続ける社会じゃ、面白くないわな」と。
私は、強い者が勝つのが当たり前だと思っていたので驚きました。そこで、「強さとは何なのか。『変化対応力』のことをおっしゃっていますか」と再び尋ねました。すると一真さんは、「その通りです」と。なんだかんだで3時間くらい粘っていろいろ聞いたのですが、やはり、「強い者だけが勝ち続ける社会じゃ、面白くないわな」という最初の言葉に、一番インパクトを受けました。