オムロングローバル化が進むオムロンの社内では、どのような組織変革が行われているのでしょうか Photo:VCG/gettyimages

事業がグローバル化、多様化するに伴って、日本企業においてもさまざまな国籍の社員が働くようになりました。しかし、社員が多様化すればするほど、価値観も多様化し、「社員が会社のために頑張るのは当たり前」というかつての日本企業の“常識”が通用しなくなっています。そうした時代の中で、社員と企業とがしっかりとつながり、目標に向かって前進するには、どのような変革が必要なのでしょうか。社員を一体化する日本流の「エンゲージメント」について、オムロンを例に『人事こそ最強の経営戦略』の著者であり人事戦略コンサルティングの第一人者・南和気氏が解説します。

「あうんの呼吸」がもたらす弊害

 日本には昔から、「言わなくともわかっている」、または「暗黙の了解」といったコミュニケーションがあり、これはよく「あうんの呼吸」と呼ばれています。1つのことを伝えるだけで、その前後関係や、どういう意図で話しているかを暗黙のうちに理解してもらえれば、非常に効率がいいですし、面倒がありません。

 こういったコミュニケーションを「ハイコンテクストコミュニケーション」と呼び、共通の文化や背景を持つ人々の間でコミュニケーションを取る場合は、非常に便利です。

 日本企業では、同じ企業で新卒入社から長く働く社員が多いことと、日本人の男性が多数を占める職場が多いため、このようなコミュニケーションが成立しやすく、ある意味において、効率性を追求する日本人の気質にも合っていました。

「空気を読む」社員が優秀とされ、重宝されるのも特徴です。また、長期雇用が前提にあるため、仲間意識、助け合いの精神といった、組織としての一体感を醸成する文化が育ちやすく、「人の成長」が直接的に「組織の成長」に結びつくことが当たり前のように思われてきました。

 よって、「人材育成」にはほとんどの企業が積極的に取り組む一方で、組織の力を高めるような取り組みについては、ほとんど意識されてきませんでした。

「一から十まで説明する文化」が育んだ組織開発

 一方、国籍や文化背景も異なる社員が多く存在し、基本的に短期間で社員が入れ替わっていく海外企業においては、「あうんの呼吸」や「助け合いの精神」を通用させるのには無理があります。

 社員は自らの雇用を守るために、自分自身の成果にこだわりますし、コミュニケーションの前提となる価値観が大きく異なるため、「言わなくても分かるでしょ」といったようなことは通用せず、何か1つ仕事を依頼するにしても、一から十まで説明する必要があるのです。