GAPやH&M、フォーエバー21などファストファッションの販売が米国で近年苦戦している。
以前の若い世代は、はやりのデザインを取り入れたファストファッションの服を気軽に購入していた。1~2シーズン着て飽きが来たら新しいものを買うので、作りは少々粗雑でも構わなかった。
ところが、現在米国の消費をけん引しているはずのミレニアル世代(1981~96年生まれ、23~38歳)はそういった使い捨てを嫌がる傾向を見せている。先日、米ニューヨークで小売りアナリストに話を聞いてみたところ、その理由の一つに米国での「こんまりブーム」が影響しているという。
動画配信サービスのネットフリックスで大人気の近藤麻理恵氏の番組を見て、彼女の“片づけメソッド”を経験した人は、大量廃棄に至ることが明白でありながらファストファッションを購入し続けることに疑問を抱くようになったらしい。
加えて、ミレニアル世代の経済的苦境も消費行動に影を落としているようだ。米ピュー・リサーチ・センターの調査によると、ミレニアル世代の2018年時点での25~37歳において、最終学歴が高卒の平均年収は4.9万ドル、二年制大卒は6.2万ドルだった(17年の物価水準に換算、以下同様)。
後期ベビーブーマー世代はどうだったろうか?
89年当時の25~37歳の平均年収は高卒で5.4万ドル、二年制大卒で6.6万ドルだ。つまり実質年収は約30年前に比べるとかなり減少している。
それもあって、親元から独立できずに同居が続いている人の比率が高まっている。後期ベビーブーマー世代の高卒の同比率は89年に10%だったが、ミレニアル世代では20%へと倍増している。これではファストファッションとはいえ、「無駄遣いは控えよう」と思う人が増えても不思議はない。
他方で、四年制大卒以上の実質年収は、89年時点の後期ベビーブーマー世代で9.5万ドル、18年時点のミレニアル世代で10.5万ドルと増加している。前述のように高卒は4.9万ドルなので2倍以上だ。実はミレニアル世代は過去に比べて、“世代内所得格差”が最も大きい世代なのだ。
ただし、ミレニアル世代の四年制大卒以上は日本円にして数千万円もの奨学金ローンの返済に苦しんでいる人も結構いる。米国の大学授業料の値上げはすさまじいものがある。過去30年の上昇率はなんと445%だ。これは同期間の消費者物価指数全体の上昇率(106%)を圧倒的に上回っている(ちなみに日本の私立大学授業料の上昇率は30年で62%)。
こういったこともあって、既婚者の比率は89年時点の後期ベビーブーマー世代では62%だったが、18年時点のミレニアル世代では46%へと著しく低下している。
それ故バーニー・サンダース氏のように、奨学金ローンの帳消し政策を提唱する民主党大統領選挙の候補者はミレニアル世代の大卒以上に人気がある。ただし、同世代でも高卒の人々は同政策に共感できないようだ。自分の2倍以上の収入を得てきた高学歴の人々の奨学金ローンを帳消しにするために、自分が増税されるのは迷惑だからだろう。
間もなくミレニアル世代はベビーブーマー世代を追い抜いて、米国で最も人口が多い世代になる。その消費の傾向をつかむことは企業にとってますます重要となるが、ミレニアル世代といっても一枚岩ではないことに注意が必要である。
(東短リサーチ代表取締役社長 加藤 出)