発売からわずか1カ月で8万部を突破し、大きな反響を呼んでいる戦略デザイナー・佐宗邦威氏の『直感と論理をつなぐ思考法 VISION DRIVEN』――。ビジネスの世界に蔓延する「他人モード」から抜け出し、自分なりの「妄想」を起点にアウトプットする方法を説いた同書は、各界トップランナーからも圧倒的な評価を得ている。

しかし、何も根拠がない内発的なアイデアが、なぜビジネスを駆動させるモチベーションになりうるのだろうか? そこで今回は、『モチベーション革命 稼ぐために働きたくない世代の解体書』などの著書があるIT批評家・尾原和啓氏と佐宗氏とのオンライン対談を企画した。今回から全3回にわたってお送りする(構成:高関進)。

尾原氏が海外在住ということもあり、当日はオンライン会議システムZOOMでのリモート対談取材となった。

「佐宗さんって『ビジネス版のこんまり』なんです」

尾原 『直感と理論をつなぐ思考法 VISION DRIVEN』読ませていただきました。これは、みんなが待望していた本だと思いますね。よく売れているというのも、納得感があります。

佐宗 ありがとうございます。おかげさまで、発売から1カ月で8万部まで伸びています。僕も今回の本は「自分個人の妄想を表現して、世に問いかけてみた」という感覚なので、ここまでの反響があるとは予想していませんでした。

尾原和啓(おばら・かずひろ)
IT批評家、藤原投資顧問、書生。1970年生まれ。京都大学大学院工学研究科応用人工知能論講座修了。マッキンゼー・アンド・カンパニーにてキャリアをスタートし、NTTドコモのiモード事業立ち上げ支援、リクルート、ケイ・ラボラトリー(現:KLab、取締役)、コーポレートディレクション、サイバード、電子金券開発、リクルート(2回目)、オプト、Google、楽天(執行役員)の事業企画、投資、新規事業に従事。経済産業省対外通商政策委員、産業総合研究所人工知能センターアドバイザーなどを歴任。著書に『ITビジネスの原理』(NHK出版)、『モチベーション革命』(幻冬舎)、『どこでも誰とでも働ける』(ダイヤモンド社)、『アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る』(共著、日経BP社)など多数。

尾原 おお、8万部! それはすばらしいですね。でも、世の中の流れを見てみると、僕にはそんなに不思議なことには思えません。たとえば、2年前にケビン・ケリーが『〈インターネット〉の次に来るもの』(原題「THE INEVITABLE」)を出版し、昨年には『FACTFULNESS』が刊行されて、好評を博しました。
ケビンの『THE INEVITABLE』は、直訳すれば「避けがたいもの」です。「未来が激変することは決まっているのだから、シンギュラリティ(技術的特異点)を恐れるのではなく、楽観的に向かっていくことが大切ですよ」という内容です。
『FACTFULNESS』も、「みんな、世の中は悪くなるって思いすぎていません? 世の中にはいいところもたくさんあるし、未来を信じようよ」という本です。

佐宗 この2冊に共通しているのは、「時代に対する心構え」を説いているという点ですね。

尾原 そう! そして、この2冊に足りないのが、「じゃあ未来に向けて自分たちをどう変えていけばいいのか」という「具体的なHOW」でした。このHOWの部分に見事に答えたのが、佐宗さんの『直感と理論をつなぐ思考法』なんですよ。

佐宗 著者の僕でもそこまで俯瞰できていませんでしたが、そう言われるとたしかにそうですね。

尾原 アメリカ人はどちらかというと、「ここに向かうにはこうすれば行ける!」というビジョン誘導型です。一方、日本人は希望よりも不安が先立つ民族です。不安になったとき何をするかというと、ベストセラーになった『人生がときめく片づけの魔法』の“こんまり(近藤麻理恵)”さんの「片づけ」だったりします。
物を片づけたり捨てたり、目の前にあることにひたすら精進していると自分が変わっていき、世の中に対応できるようになって、いつのまにか世の中が全部きれいになっていく。そういう具体的なHOWを示しているんですね。NETFLIXで配信されている「KONMARI〜人生がときめく片づけの魔法」がアメリカでも話題ですが、アメリカ人にもこういうアプローチが刺さったのかもしれません。
いずれにしろ、佐宗さんの今回の本は、「シンギュラリティ時代を生き抜くための『ビジネス版こんまりメソッド』」なんですよ。

佐宗 なんと(笑)! まったく予想しなかったまとめですが……なるほどなあ。

尾原 もちろん褒めているんですよ。誰も語れていなかったHOWを、ここまで言語化・ノウハウ化しているのは、見事というほかありません。

佐宗邦威(さそう・くにたけ)
株式会社BIOTOPE代表/チーフ・ストラテジック・デザイナー。大学院大学至善館准教授/京都造形芸術大学創造学習センター客員教授。東京大学法学部卒業、イリノイ工科大学デザイン研究科(Master of Design Methods)修了。P&Gマーケティング部で「ファブリーズ」「レノア」などのヒット商品を担当後、「ジレット」のブランドマネージャーを務める。その後、ソニーに入社。同クリエイティブセンターにて全社の新規事業創出プログラム立ち上げなどに携わる。ソニー退社後、戦略デザインファーム「BIOTOPE」を起業。BtoC消費財のブランドデザインやハイテクR&Dのコンセプトデザイン、サービスデザインプロジェクトが得意領域。山本山、ぺんてる、NHKエデュケーショナル、クックパッド、NTTドコモ、東急電鉄、日本サッカー協会、ALEなど、バラエティ豊かな企業・組織のイノベーション支援を行っており、個人のビジョンを駆動力にした創造の方法論にも詳しい。著書に『直感と論理をつなぐ思考法――VISION DRIVEN』『21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由』(クロスメディア・パブリッシング)がある。

佐宗 ありがとうございます。尾原さんに最初にお会いしたのは、2年くらい前、シンギュラリティ大学の活動を始めたときだったと記憶しています。当時の僕は、何かしたいという思いがありながらも、モヤモヤとしてうまくカタチにできない面がけっこうあったんです。
その前後から、僕が今メインで活動している戦略デザインファーム「BIOTOPE」で、日本最大のレシピサイト「クックパッド」さんを始め、複数のビジョナリーな企業様と一緒になって「10〜50年先の壮大なビジョン」を構想し、「3年くらいの具体的なアクションスキーム」に落とす、というようなプロジェクトを手がける機会が増えてきました。妄想から始め、すごく大きく構想したことを、日常レベルに落としていく。まだ誰も方法論化していなかったそういう仕事を続けてきた蓄積が、この本に結実したのかなと思っています。

尾原 クックパッド創業者の佐野陽光さんは、僕のなかではジェフ・ベゾス(アマゾンCEO)くらい頭のぶっ飛んだ方で、最初からできあがったビジョンをもっている。佐野さんはもともとエンジニアだから、エンジニアなみに「未来はこうあらねばならない」というアーキテクチャが見えているんです。
たとえば佐野さんには、「人がクリエイティブなことをやるときに必要な知識のパーツが、すぐにインストールされる状態でならなければならない」という知識構成主義に近いような「妄想」があった。それで、「日常のなかで一番重要なクリエイティブなこと=料理」だから、クックパッドというサービスが生まれた、というのが彼の中の順序なんです。

佐宗 そうなんですね! 自身の強烈な「妄想」がまずあって、そのあとに、それをどう現実に落としていくかを考えている。まさに『直感と論理をつなぐ思考法』で展開させていただいた「ビジョン思考」のアプローチですよね。

尾原 これはベゾスも同じですね。まず「すべての物流はユーザーにとって便利でなければならない」という考えがあって、そのためにはすべてのアーキテクチャがオブジェクト単位でできあがっていなくちゃいけない。だから結果的に、AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)のようなクラウドサービスにまでつながっていくわけです。

「ヤミ落ち」と「ヤミ抜け」

佐宗 ところが最近の日本には、「妄想を世の中に問う」ということがちょっと認められにくいような空気があります。これをなんとかしたいなと思っているんですよね。
今回の書籍の元になった京都造形芸術大学での「ビジョンを具現化する技法」というワークショップには、社会人が多く参加していたんです。それも、先進的な取り組みをしている会社の感度の高いビジネスパーソンたちも多く参加していました。ワークショップでは、それぞれの妄想を形にしていきました。会社として求められる何かではなく、自分自身の内面から湧き出る妄想を具体化していったわけです。
最後にそれらの品評会をやったんですが、そこでは「自分が考えていたことだけを形にして100%肯定されたのは初めてだ」っていう感想が出てくるんですよね。僕から見たらかなりの感度の高いイノベーションエリートのような人たちです。日本の社会では教育も含め、「個人性」とか「主観性」を排除するようなところがあります。でも、これを続けていると、教育現場でも職場でも、ある種の停滞感が生まれてくる。個人もやる気をなくしていきます。本にも書きましたが、僕も一時期うつで1年くらい休職した経験があります。

尾原 おお、「ヤミ落ち」の話ですね。もともと高度成長期までの日本は、短期間で成長する必要性があったから、ひたすら問題解決マシーンを養成していました。すでに問題はわかっていて、それを解決する能力が高い人が偉いというカルチャーです。問題解決力、つまり演繹的な考え方をする人、社会のパーツになれる人しか育ててこなかったんですね。
他方、われわれが語っている妄想力は、ひと言で言えば「他人と違うことを考える力」です。こちらは演繹的ではなく帰納的な思考で、内側から湧き上がってくるものです。でも、演繹的な能力が重視される社会では、いくら妄想力を発揮しても、その人は評価されません。誰にも評価されないから、妄想力をもった人たちは、いずれ「ヤミ落ち」せざるをえない。何を隠そう、僕も「ヤミ落ち」経験があります(笑)。

佐宗 ええっ! そうなんですか!

尾原 自分が人と違うということを誰にも理解されなくて、「他人と同じになりましょう」という社会の圧力に負けて「ヤミ落ち」してまう――そういう人はけっこういると思います。バランスをうまく取れるようになると強いですが、やっぱり「ヤミ落ち」はつらいですからね。

佐宗 尾原さんはそういうバランスを取り戻せたのはなぜだと思いますか? どういうきっかけなり、後押しなりがあったのでしょうか?

尾原 僕の場合、とてもありがたかったのは、「ヤミ落ち」したときにみんなが仕事を辞めさせてくれたんですよ。とにかく問題解決マシーンみたいになってオーバーワークを続けて、心が壊れかけたときに、「もういいよ尾原くん、一回仕事を辞めよう。でもいつでも帰ってきていいから」と周りの人が言ってくれたんです。それがいちばん大きかったです。

自分を取り戻すためのビジョン思考

佐宗 「妄想」がある人ほど、若いころに「ヤミ落ち」を味わっているというのは、僕自身も経験的に以前から思っていました。優秀な人とサシ飲みしていたりすると、「じつは私も20代のころに……」という話を本当によく聞きます。

尾原 結局、「妄想」の行き場がなくなって、それが自分のなかでグルグルと回ってしまうんです。その結果、自分が自分のグルグルに押しつぶされてしまう。ヤミ抜けできた今だからこうやって言語化できますが、当時は本当にしんどかったですね。「このままいくと自分に自分が殺される!」って思っていました。

佐宗 「自分のグルグルに押しつぶされる」――その表現、めちゃくちゃよくわかります(笑)。グルグルは、別の言葉で言えば、論理思考による自動思考。論理思考は連続的な思考なので、放っておくと回り続けるんですよね。尾原さんの場合は、その堂々巡りからどうやって抜け出したんですか?

尾原 僕の場合は「ヴィパッサナー瞑想」でした。学生のとき一度だけヴィパッサナーをやったことがあったんで、「これだ!」と思って、会社を辞めて1ヵ月くらい、インドに行ってヴィパッサナーをやりました。ヴィパッサナーには、2週間くらい誰ともしゃべらずにずっと自分と会話するという技法があるんです。自分と冷静に対話して、自分のなかにある自分を見つめ、もう一回受け入れる。

佐宗 おお、瞑想ですか。僕もP&Gで「前年比○%の売上達成」みたいなことをやりまくった結果、完全に自分自身が擦り切れてしまったんですよね。それで僕も1週間ほど「内観法」の道場に通ったことがあります。ひたすら瞑想をやりました。

尾原 それは奇遇ですね。ちなみに僕は、それでもまだ現実に戻れなさそうだったので、そのあとインドからロンドンに行ったんです。僕はもともと博物学が大好きな「雑学王」みたいなところがあって。

佐宗 自分を取り戻すために、自分の原点である「好き」に立ち返ったわけですね。

尾原 そうなんです。たとえば大英博物館って、世界中から略奪した品々の宝箱じゃないですか? 言ってみれば「元祖・雑学王」の聖地のような場所です。そういう場所に毎日通って、とにかく自分が気に入ったものばかりを見まくる生活を続けました。一番好きだったのが「テート・モダン」という美術館にあるロセッティの絵でした。ダンテの『神曲』に出てくる初恋の人ベアトリーチェを描いた絵が好きで毎日見ていた。そのうちに「僕は好きなものを構造化したり言語化したりするのが大好きなんだ」と気づいて、仕事がしたくなり、それで日本に戻って仕事を再開したわけです。
僕が経験したこのステップは、佐宗さんが『直感と論理をつなぐ思考法』で書いているステップとすごく似ていると思いました。妄想や好きなものを起点に自分らしさを再構築していくプロセスは、僕がインドやロンドンでやったことそのものです。

佐宗 僕もちょうど同じことを考えていました。『直感と論理をつなぐ思考法』では、そのような場所を「地下世界=ビジョンのアトリエ」として描いています。ポイントは自分の「グルグル=妄想」に押しつぶされないために、あえて「妄想→知覚→組替→表現」というサイクルを自分から回すようにガイドしているところでしょうか。でもこれって、尾原さんと同じで、僕自身が自分を取り戻すために10年くらいかけてやってきたいろんなことを、抽象化・構造化することで生まれてきたものなんです。

(第2回へ続く)