普段連れて行く少女たちとは明らかに違う、溌剌(はつらつ)としたA子さんを見ると、母親は慌てて起き上がり、乱れた浴衣の胸元を合わせながら「どなた」と聞いた。

「この子、A子、聞いたことあるだろ。頭いいんだ。私たちとは違うんだ」

 紹介すると、「まあ、まあ、よくおいでくださいました。清美をお願いします」正座して、何度も頭を下げた。

(あんなにぺこぺこすることないのに)

 久々に会ったA子さんの顔を見て昔のことを思い出し、嫌な気持ちになった。

「ねぇ、2万円あるならちょうどいいわ。貸してくれない。さっきバーゲンで、すっごいかわいい服見つけたんだけど、手持ちがなくて。私今、スナックでバイトしてて、結構もらってるの。30万円ぐらいもらうことあるよ。もうすぐ給料日だから、もらったらすぐ返すからさ。お願い」

 いきなり借金を申し込むと、A子さんの顔からさっと笑顔が消えた。

「だめだよ。うちはバイト代は全部、明細と一緒に親に見せることになってるから。それにこれで家族にプレゼントを買うの。貸せるお金はないよ、ごめんね」

 自転車を押し、立ち去ろうとする。

「お願い、ね、倍にして返すから。売り切れちゃうよ。私、スナックのママにすごい気に入られていて、今度お店を任せようかなって言われているの。そうしたらお金ばんばんもらえるようになるから、恩返しするよ」

 出まかせを言いながら、必死に追いすがる。あの服が買いたい、どうしても欲しい、そんな気持ちが一気に膨らみ、抑えられない。しかし、A子さんはどんどん行ってしまう。人けのない神社の近くを通った時だった。

(こいつ、殺してしまおうか)

 ふいに殺意が芽生えた瞬間、A子さんは振り向き、何もかも見透かしたような視線を清美さんに投げつけると「じゃあ」と言い残し、自転車に乗って走り去ってしまった。