中央政府はあくまで
香港警察内で収めたい

 事態はこれからどう推移していくのだろうか。

 前回コラム(香港情勢を現地報告、新スローガン「和理非」は打開の糸口となるか)でも検証したように、香港市民は林鄭月娥が「五大訴求」に応えることを強く求め続ける見込みであるが、一部抗議者が空港を占拠する、道路や地下鉄を封鎖する、警察と「武力衝突」するといった場面には拒否反応を示すようになっている。

 故に「和理非」が、今後香港市民が自らの欲求を勝ち取っていくための最大公約数になり得ると情勢を判断していた。昨日のデモ現場において、一部商店のシャッターが無理やり開けられ、窓ガラスや店内が壊された。このような、香港市民の正常な生活や秩序に危害を与えるようなやり方は、広範な香港市民の賛同を得られないであろう。

 一方で、市民は一部抗議者がそういう行動に走る根本的な理由が、香港政府が「五大訴求」に応えようとしないことにあることを知っている。ここにきて、林鄭月娥は著名な元政府幹部や大学の学長らと「対話プラットフォーム」を構築すべく動いたが、火に油を注ぐ結果に終わるであろう。

 市民にはそれが単なる「見せかけ」、「時間稼ぎ」だと映り、市民たちに真正面から向き合う形で「五大訴求」に応えようとしない林鄭月娥への反発や不信感を強めるのは必至であるし、それはすでに昨日に起こった一連の抗議デモや衝突ににじみ出ている。

 香港警察が発砲によって、抗議者や事態を鎮圧する選択肢を可視化したことは、中国共産党指導部があくまでも香港警察の範囲内で問題解決したい、人民解放軍の発動には踏み切りたくないと考えていることのひとつの状況証拠になると筆者は見ている。

中国中央政府は
唯我独尊的存在に

 党指導部としては自らのイメージを壊したくない。故に、香港人同士を闘わせようとしているのだ。それで事態が収まればそれでいいと考えている。香港でのデモが中国本土に及ばない限り、党指導部は「静観」を続けるだろう。

 ただ、それが現実化する可能性は限りなくゼロに近いと筆者は見ている。共産党による用意周到な情報操作や愛国教育も功を奏し、中国人民は香港市民のことを「国恥」(深セン在住の某著名中国人起業家)と見なし、これまで以上に愛国的、愛党的になり、党指導部の体制や政策を支持するようになっている。

 本連載でも度々指摘してきたように、昨今における米中貿易戦争、華為事件、香港情勢、台湾問題といった一連の出来事は、中国を自由で開放的な、国際社会との共存を重んじる包容的で、法治や民主主義にも理解を示し、寄り添う方向に促してはいない。全く逆である。これらの出来事は、中国共産党、そして中国人民を、自らの論理と需要に基づいて動き、自らと異なる体制や価値観に歩み寄ろうとしない、自分だけが正しく、四六時中被害者を演じる唯我独尊的存在に化けさせている。

 国際政治経済が、中国の民主化を妨害し、ますます他者と相いれない、内向きにさせる構造が見いだせるのである。

 8月31日(土)には民間人権陣線主催のデモ行進が予定されている。香港島の中心部・中環を出発し、中国政府駐香港連絡弁公室がある西環に向かって行進するという。市民が「五大訴求」を全く諦めておらず、「和理非」の力で林鄭月娥、そしてその背後にいる中国共産党指導部を動かそうとしている現状を表している。この動向や傾向は、林鄭月娥が応えない、動かない限り続くであろう。