「あの人誰なの」

 理沙が森嶋に身体を寄せて小声で聞いた。

「長谷川新之助。世界的な建築家です。アメリカでも多くの仕事をしています」

「これから何が起こるっていうの」

「僕にも分からない。日本人と日本政府を弁護したいんです。ただぼんやりしてたんじゃないって。でも、上手くいくかどうか」

「あなた、今日はどうしたの。すごく積極的で大胆じゃない」

 理沙が早苗の方をチラチラ見ながら言った。

 早苗も理沙を気にしている様子だった。

「でも、ここで見たことと聞いたことはまだ記事にしないでください。これだけは約束してください」

「なにを言い出すの。その判断は私がするのよ」

 理沙は低いが強い口調で言った。

 しかし彼女は自分の仕事の影響力は十分に知っている。良心的なジャーナリズム。これも彼女から聞いた言葉だ。

 森嶋は改めて、ダラスと理沙を長谷川と早苗に紹介した。

 ダラスは早苗が長谷川の助手だと聞いて驚いている。アメリカ人から見ると、早苗は高校生程度にしか見えないのだ。

「申し訳ありません。こんな時間に勝手なことをして。しかし、これはすごく重要なことだと判断しました」

「父はすぐに来るわ」

 森嶋が長谷川に言うと、早苗が森嶋の側に来て言った。タクシーの中から村津に電話しておいたのだ。

 森嶋たちはエレベーターに乗って、長谷川の事務所に直行した。