長谷川は模型のある部屋へと三人を案内した。
部屋に入ったダラスの足が止まった。目は中央のデスクに向けられている。
部屋の中央のデスクには新首都の模型が置かれている。
森嶋たちはドアの前に立って、その模型を見ていた。
「本当だったんですか」
ダラスがかすれた声を出した。表情が変わっている。自ら模型の前に近づいていった。
「これが新しい日本の首都です」
長谷川がダラスに言った。
ダラスは模型の前で動かない。ダラスの視線は模型に固定されたままだ。
その横で理沙の目も模型に吸いついている。
「首都移転ですか」
ダラスは模型に目を向けたまま言った。
「日本は歴史的に、国難に際しては首都を移転して切り抜けてきました。現在の日本の状況を重大な時期と捉えている人が多くいます。国民の心を一つにし、誇りと自信を取り戻すことこそ最も必要なことだと。総理は新しい首都を造ることを考えています」
森嶋はダラスと理沙に向かって言った。
長谷川は無言で聞いている。おそらく彼も先のことについては知らないのだ。
「考えているだけでは意味がありません」
「近いうちに公式に発表します」
「公表してどうなるというの。国民はまだ何も聞いてないわよ。こんなこと突然言われても、誰も本気にしない。混乱を招くだけ」
理沙が日本語で言ったが、視線は模型に向かったままだ。
「座して死を待つよりは100倍もいいと言ったのは誰でしたかね。総理はすでに首都移転を決心していると聞いています」
「聞いているだけじゃ、何の意味もないって言ってるの。こんなものを見せて、どうしろと言うの」
理沙が模型から顔を上げて森嶋に向き直った。
「非常にシンプルで首都らしくない首都だ」
ダラスが2人の話をさえぎるように声を出した。
「私が子供たちを育てたスプリングシティに似ています。シンプルさの中に人の心を包み込む温かみがある」
「これは新しい未来の町です。同じような希望の町を日本の各地に造っていきます。日本の中心が列島に広がっていくのです。我々日本人と政府は、新しい日本の形を生み出そうとしています。そして新しい首都の形もね」
長谷川の言葉に、ダラスは再び模型の町に目を移した。
「あなたは日本の格付けの降格時に日本に不足しているのは、変えようとする意識だと言った。この新しい首都の形は日本の未来を変えることにはなりませんか」
今度は森嶋が言った。
その時、廊下を急ぎ足で歩く靴音とともにドアが開いた。入ってきたのは村津だ。そして背後には殿塚が立っている。
(つづく)
※本連載の内容は、すべてフィクションです。
※本連載は、毎週(月)(水)(金)に掲載いたします。