横浜市が山下埠頭にIRを誘致することを正式に決定した。これに猛反対するのが「ハマのドン」こと藤木幸夫氏。筆者は藤木氏とは少し見方が異なるものの、やはり横浜のIR誘致は反対である。京都以上の「観光公害」で市民が苦しむことが目に見えているからだ。(ノンフィクションライター 窪田順生)
「街が死ぬ」
ハマのドンの徹底抗戦
このままいけば、ダム建設に反対する地元民が籠城して解決まで13年もかかった、下筌ダムの「蜂の巣城紛争」のようなことが繰り広げられるのだろうか――。
先週、横浜市が山下埠頭にIR(カジノを含む統合リゾート)を誘致することを正式に決定したことを受けて、藤木幸夫・横浜港運協会会長が「命を張って反対をする」「ここで寝泊まりする」と、地元港湾業界として徹底抗戦することを表明した一件のことである。
藤木会長といえば、菅義偉官房長官、二階俊博自民党幹事長など中央政界の要人と親しく、林文子横浜市長の後援会長も務めるなど、「ハマのドン」と呼ばれる超実力者。元々は「横浜IR」に好意的だったが、ギャンブル依存症の恐ろしさを知るに至って、「街が死ぬ」(朝日新聞デジタル2019年4月26日)と、反対派の急先鋒へ転じたことで注目が集まっていた。
なんて「カジノ」を巡るバチバチのバトルを耳にすると、「既に日本中にパチンコ屋や競馬場が溢れていて、ギャンブル依存症なんてウジャウジャいるんだから、今さら大騒ぎするような話ではない」「カジノができて、外国人観光客にジャンジャン金を落とさせて地域が潤って雇用も増えるならいいだろ」などと感じる方も多いのではないか。
ただ、横浜市民の身になれば、それはかなり無責任というか、ノーテンキな見通しだと言わざるをえない。藤木会長の仰る、山下埠頭にできるIRで「街が死ぬ」というのも、あながち大袈裟な話ではないからだ。
といっても、それはカジノでギャンブル依存症が増えて、街に違法な金貸しや犯罪が溢れかえるからとかではない。「観光公害」によって、である。
今、日本各地に、区域内のキャパシティを遥かに超えた観光客が押し寄せて、地元住民たちの生活をハチャメチャにする「観光公害」が大きな問題となっているのは周知の事実であろう。