【杭州(中国)】中国財界で馬雲(ジャック・マー)氏のような人物は他にはいない。そして、馬氏のような人物が次に登場するまでには、長い月日を要するかもしれない。
中国の大富豪である馬氏は10日、自身の55歳の誕生日にアリババグループ会長を退く。馬氏は20年前、中国南部・杭州のアパートでアリババを共同で創業。それ以降、アリババは時価総額5000億ドル(約53兆6000億円)近い企業にまで成長した。かつて英語教師だった馬氏は、人生の第三幕として、再び教育分野に戻り、とりわけ慈善活動に専念したいと考えている。
馬氏は長年にわたり、最も著名なビジネスリーダーとしてカリスマ的な存在感を発揮してきた。同氏の引退により、中国財界のトップには当面、空白が生じそうだ。馬氏はその過激な発言で、中国国内外の注目を集めてきた。今年開催されたアリババ社員の合同年次結婚式では、新郎新婦に対し週72時間の長時間労働だけでなく、自由時間に子作りに励むよう促した。
対照的に、他の中国ハイテク企業の幹部や、馬氏の後継者としてアリババ会長職を引き継ぐ張勇(ダニエル・チャン)現最高経営責任者(CEO)は、馬氏と比較するとかなり派手さを欠く。
「馬氏は国内外を問わず中国ビジネス界の顔だ」。こう指摘するのは、アリババの初期投資家で、馬氏のアリババ創業に関する著作もあるダンカン・クラーク氏だ。 「彼は今、慈善活動や環境保護、教育の顔になることを目指しており、そこにはテクノロジーがいかに世界をよくする力になれるかという隠された意図がある」
中国政府は習近平国家主席の下で国有企業を促進する一方、民間企業に対しては監視を強めており、財界首脳らは目立つことを恐れるようになったとクラーク氏は指摘する。「時代を象徴する次の存在が現れる環境は今のところ整っていない」