帰っていく患者の背中を見ながら気にかけているのは、次に来院するまで、いかにベストの状態を保たせるか。

「必ず地元の先生に手紙を書いて、かかりつけ医をお願いしています。万が一の際はそこで診てもらえるようにしているわけですが、当然任せきることはできません。だからすごく気を使いますよ。遠方の患者さんには、地元の先生にちゃんと頼んであげるから、そちらで治療を受けたらどうですかと言うんですけど、やっぱりこっちに来たいとおっしゃる。その気持ちに応えたい。

 それから、複数の病院で診てもらったけどなかなかよくならない、あるいは重症で、今診てもらっているところでは治療が難しいといった患者さんにもぜひ来ていただきたい。本当に困っている方々のお役に立ちたいと思っています」

僧侶となる英才教育を受けた結果、
早々に嫌気がさして医師をめざす

 木田先生は話し上手だ。興味を引く出だし、分かりやすいが深みのある内容。メリハリのある口調は、よどみない。だから、つい聞き入ってしまい、取材終了後には人生の大切な指針をいただいたようなすがすがしさに満たされた。そんな話し上手のルーツは、寺の跡継ぎとして父親から施された「早期教育」にあるらしい。

「4歳から経を読まされました。でもオヤジがこだわっていたのは、経や行事のやり方ではなく、人前での話し方や境内の掃除や保ち方でしたね。徹底して仕込まれた。お説教について回るんだけど、それがすごくうまくて人気があって、檀家さんがお年寄りばかり何百人も集まる。

 おかげで、高校生頃には一通り、寺の仕事はこなせるようになっていました」

 父親としては、跡取り息子に対して、盤石の早期教育を施したつもりだったろう。だが、それが裏目に出る。

「思春期にプロフェッショナルな世界の裏が分かると、すごくいやになるんです。寺は悲しみのどん底にいる人を相手に、ある意味ビジネスをするわけですからね。オヤジは違いましたが、ほかの僧侶の態度を見ているといやになってしまった。これは僧侶に限らず、医者の世界でも、ほかの世界でもそうかもしれませんが」

 そんな、進路に迷う純粋な少年の目に輝いて見えたのは、医師という仕事だった。