この段階で香港の騒乱はまだ始まっておらず、「一国二制度」は少なくとも表面的には上手くいっているように見えました。香港程度の自由を謳歌できるのなら、台湾が中国にのみ込まれても問題ないのではないかという楽観論が、台湾でも一定の支持を集めていました。台湾の経済は日本以上に中国に依存しており、政治的独立より、経済的利益を重視する経済界は基本的に親中派です。

 日本のシャープを買収して話題になった鴻海(ホンハイ)精密工業(以下、ホンハイ)会長の郭台銘(テリー・ゴウ)が、4月に国民党の総裁候補として名乗り出た時、与党民進党の党内対立で蔡英文総統は指導力を失い、来年の総統選での再選が危ぶまれていました。ホンハイは中国国内にiPhone製造工場などを展開して100万人を雇用している台湾企業です。彼自身の政治思想はともかく、中国共産党に首根っこをつかまれていることは間違いありません。習近平の「世論戦」通りに、台湾は中国との平和統一、一国二制度へ舵を切ろうとしていました。

 この流れに急ブレーキをかけたのが、6月に始まった香港の騒乱でした。蔡英文総統はいち早く香港市民にエールを送り、自身のフェイスブックで「一国二制度は失敗だった」と断じました。これまで一国二制度に幻想を抱いていた台湾の無党派層は、香港警察によるデモ隊弾圧の映像を見て冷や水を浴びせられ、ホンハイ会長の郭台銘の支持率は失速し、総統候補を決める7月の国民党予備選で敗退しました。

 逆に追い風を受けた民進党は党内対立を乗り越え、蔡英文総統の再選へ向けて意気軒昂です。香港の運命はいまだ不透明ですが、独裁に反対する香港市民の行動が東アジア全体、特に台湾に大きな影響を与え、歴史を動かしたことは間違いありません。

韓国は見捨てるが
台湾は見捨てない

「独裁から自由へ」という東アジアの大きな歴史の流れに背を向けているのが韓国です。選挙で選ばれた文在寅政権は、一度も選挙で指導者を選んだことのない北朝鮮との「祖国統一」に邁進しています。金大中政権時代の文在寅が、朝鮮労働党員として当時の北の指導者・金正日に忠誠を誓う文書に署名している史料も出てきました(「月刊Hanada」 2019年10月号 篠原常一郎氏の記事)。その真偽を確かめる手段を私は持ちませんが、「さもありなん」と思います。

 文在寅政権は、同じ自由主義陣営だったはずの日本との関係を、「歴史カード」を振りかざして破壊し続けています。自衛隊哨戒機への火器管制レーダー照射、日本製高純度フッ化水素の横流し黙認、日本との軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄、竹島での韓国軍の上陸訓練……日本が憲法上「平和を愛する諸国民の公正と信義」に自らの安全を委ね、「戦争のできない国」だから「遺憾の意」で済んでいますが、まともな主権国家であったら韓国を経済制裁の対象にしているでしょう。

 文在寅政権の最終目標は、米韓同盟の破棄と在韓米軍の撤収です。8月末、韓国の国家安全保障会議(NSC)は、米軍基地の早期返還を求めることで合意しました。朝鮮戦争で北朝鮮軍の南侵から韓国を守った米軍に、「出て行け」といっているわけです。