台湾にとって「本当に頼れる国」は日本である――台湾元総統・李登輝氏は言う。「日本人はもっと誇りを持つべきだ」と主張する同氏が、かつて日本人が台湾にもたらした功績について語ってくれた。人気ジャーナリスト・櫻井よしこ氏の最新刊『凛たる国家へ 日本よ、決意せよ』の中から紹介していこう。
李登輝元首相の教育改革「認識台湾」
1995年に『エイズ犯罪 血友病患者の悲劇』(中公文庫)で第26回大宅壮一ノンフィクション賞、1998年には『日本の危機』(新潮文庫)などで第46回菊池寛賞を受賞。2007年「国家基本問題研究所」を設立し理事長に就任。2011年、日本再生へ向けた精力的な言論活動が高く評価され、第26回正論大賞受賞。2011年、民間憲法臨調代表に就任。
著書に『論戦』シリーズ(ダイヤモンド社)、『「民意」の嘘』(花田紀凱氏との共著、産経新聞出版)、『日本の未来』(新潮社)など多数。
アメリカが「世界の警察」ではないと宣言し、中国が力に任せて膨張する中、中国不変の最大の狙いが台湾併合である。これまで台湾の強力な後ろ盾だったアメリカだが、実は中国との外交取引の中で、台湾擁護の政策は複数回にわたって揺れてきたというのが、台北にある国立清華大学アジア政策センターの主任教授でアメリカ人のウィリアム・スタントン氏の主張だった。
どこから見ても台湾はかつてない深刻な危機に直面している。その台湾が最終的に頼れる国はどこか。国民党の馬英九総統(当時)は明らかに中国だと考えている。国民党と対立する台湾人の政党で最大野党(当時)、民主進歩党(民進党)はアメリカと日本だと考えている。
しかし、日米両国への信頼については、民進党内でも世代間格差があると指摘するのが、李登輝元総統である。
2015年9月18日、台北のご自宅で2時間半余り、お話を聞いたが、李元総統はご自身より一世代若い台湾人は国民党の反日教育で育っており、自分の世代とは対日感情が違うこと、その代表が民進党の陳水扁総統だったという。
「私が総統になって最初に取り組んだのが教育です。台湾人でありながら国民党支配下の台湾人は、子どもに自分たちは台湾人であることを教えられなかった。学校の歴史の授業は中国のことばかり、地理も中国の地理です。私はそれを『台湾を知ろう!』と呼び掛けて、子どもたちに台湾の歴史や地理を教えるため、教科書も新しくしました」
李元総統主導の教育は「認識台湾」と呼ばれる。台湾人として李氏の後継総統となった陳氏は、この台湾回帰を鮮明にした教科書をやめてしまったというのだ。
「彼は日本の教育を受けていないから、そのよさを知らないのです。反日教育が効いているのです」と、李元総統は明言する。