売掛金と在庫だけで7億円もキャッシュが悪化している!

 「千葉精密では時間的なズレが大きくなっている」
 そう言うと川上は、営業CFを指さして説明を続けた。

 「販売して売上(収益)を計上したのに、入金のない売掛金が3億円も増加している。売掛金の増加=収入がない、と考えるからC/Fではマイナスになる。それだけ会社の血液であるお金が滞っているんだ。それだけじゃない」
 川上はいつになく厳しい表情で続けた。

 「在庫も4億円増えている。在庫が増えているということは、材料を仕入れて、業者には支払いをしているのに、お客さんには売れずに収入がないということだ。売掛金と在庫だけで7億円もキャッシュが悪化しているよ」

 「7億円……」
 早苗は、見たこともない金額を想像して目が眩んだ。年末ジャンボ宝くじの1等7億円とちょうど同じ金額だ。100万円の札束に換算すると700個分! それだけのお金が、わずか1年の間に千葉精密から出ていってしまったのだ!

 「売掛金と在庫は、B/Sの講義の時に、ダイエットしろと言われた項目ですよね」

 「在庫と売掛金はお金が化けたものと言っていい。今期は滞留している在庫と売掛金をお金に換えないとな」
 川上による『営業CF』の説明が続いた。

 (1)収益と収入、費用と支出のズレが、資産(売掛金や在庫)や負債(買掛金)の増減となってC/Fに反映される。

 (2)資産の増加は、現金がその姿を変えたものと考えてC/Fをマイナスにし、資産の減少は、その資産が現金に変わったと考えてC/Fをプラスにする。

 (3)一方、負債の増加は、その分だけ現金をまだ払っていないもしくは預かったということだから、現金が増えていると考えてC/Fをプラスにし、負債の減少は、現金を払ったと考えてC/Fをマイナスにする

 つづく

相馬裕晃(そうま・ひろあき)
監査法人アヴァンティア パートナー、公認会計士

1979年千葉県船橋市生まれ。
2004年に公認会計士試験合格後、㈱東京リーガルマインド(LEC)、太陽ASG 監査法人(現太陽有限責任監査法人)を経て、2008 年に監査法人アヴァンティア設立時に入所。2016年にパートナーに就任し、現在に至る。
会計監査に加えて、経営体験型のセミナー(マネジメントゲーム、TOC)やファシリテーション型コンサルティングなど、会計+αのユニークなサービスを企画・立案し、顧客企業の経営改善やイノベーション支援に携わっている。年商500億円の製造業の営業キャッシュ・フローを1年間で50億円改善させるなど、社員のやる気を引き出して、成果(儲け)を出すことを得意としている。
著書に『事業性評価実践講座ーー銀行員のためのMQ会計×TOC』(中央経済社)がある。MQ会計を日本中に広めてビジネスの共通言語にする「会計維新」を使命として、公認会計士の仲間と「会援隊」を立ち上げ活動中。