トランプの「ディーラー」
としての資質に賭けている

 理由は大きく3つあるように思われる。

 1つ目に、上記の「2019年香港人権・民主主義法案」の成立如何を巡る情勢が秒読み状態に入っている現状が挙げられる。

 9月17日に行われた中国問題に関する連邦議会・行政府委員会公聴会には14年の香港民主化デモ「雨傘運動」を率いた黄之鋒(ジョシュア・ウォン)氏らが招かれ、米国が自由を守り、民主化を求める香港市民の側に立ってくれるよう求めた。香港市民はこれらを含め、米国の議員やトランプ大統領の香港問題に関する言動を、固唾を呑んで見守っている。

 2つ目に、香港市民は「五大訴求」が一つも欠けてはならないと訴えてきたものの、香港政府は3ヵ以上先延ばしにした上に、「逃亡犯条例」改正案の撤回という一項目にしか応えておらず、他の「警察による市民への暴力行為を調査するための独立委員会の設立」などには一切応えていないことが挙げられる。

 香港市民の多くは、林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官率いる香港政府が、市民の要求に耳を傾けたり、実際の政策で応えたりするための身動きが取れない主要な原因は、習近平総書記率いる中国共産党の対香港強硬・抑圧策にあると認識している。

 共産党の習近平という「内圧」を克服し、自らの欲求を実現するためには、米国のトランプという「外圧」に頼るしかもはや方法はないということであろう。

 そんなトランプ大統領への期待の高まりが3つ目の理由である。トランプ政権は、中華民族の偉大なる復興を意味する「中国夢」を掲げ、内政では抑圧的、外交では拡張的な政策を続ける習近平政権に対して貿易戦争を発動し、強硬的と受け取れる対中政策を取ってきた。10月には第13回米中ハイレベル通商協議が予定されるなど、米中は引き続き対話や合意を模索しているとはいうものの、依然として予断を許さない状況にある。そんな中、香港市民は選挙を控えるトランプ大統領が対中政策の枠組みの中で、貿易問題と香港問題をリンケージさせ、後者において習近平主席に圧力をかけるという、同大統領の「ディーラー」としての資質に賭けているのである。

9月21日(土)、屯門公園にて Photo by Y.K.

中国が香港問題で
妥協することはない

 ただそれはリスクを伴う賭けでもある。

 筆者の観察と分析によれば、トランプ大統領は「自由」、「民主主義」、「普通選挙権」、「人権」といった制度や価値観を重視する外交を展開してきたわけではないし、その兆候も見受けられない。それよりも自らの人気や支持率に直接つながる「実利」を重んじる傾向にある。そんなトランプ大統領はすでに貿易問題と香港問題をリンクさせている。それ自体は香港市民の望むところである。ただ、同大統領が一連の対中交渉のなかで、香港問題で習近平主席に圧力をかけるとは限らない。その逆、すなわち貿易問題で米国に有利な成果を得るために、香港問題を犠牲にする可能性も充分に考えられる。

 トランプ大統領が今後どのような対中交渉を展開していくのかに関しては、読めない部分が多々ある。一方で、習近平主席はどう出てくるであろうか。中国側の反応や立場はかなり確定的であると筆者は考えている。

 中国共産党にとって、貿易戦争で揉めている米国との関係、香港問題はいずれも重要である。同党の生存や運営という観点から、優先事項として相当前のほうにあると言って間違いない。しかしながら、両者は同党にとって次元の異なる問題である。状況次第で一定の余地(妥協を含め)を残している対米通商交渉とは異なり、香港は中国共産党にとっての内政、主権に直結する問題であり、根源的に妥協の余地はない。米国の政府や議会が放つ香港問題に関わるほぼすべての言動に対して「内政干渉だ」として頑なに反対、抗議、拒否するゆえんもここにある。