だがそんな母が昨年、腰椎圧迫骨折で、およそ2ヵ月間の入院を余儀なくされた。いわゆる「いつの間にか骨折」で、原因は骨粗しょう症。背中から腰、臀部にかけての痛みで近所の整形外科を受診し、すべり症や脊柱管狭窄症など診断は二転三転、まったく回復しないまま複数の医療機関を回った末に骨折が判明し、入院治療することになったのだ。

 母と同居する弟からその話を聞いた時、男性が心配したのは「廃用症候群(はいようしょうこうぐん)」だった。

「生活不活発病」とも呼ばれ、病気やケガなどの治療のため、長期間にわたって安静状態を継続することによって発症する。身体能力の大幅な低下や精神状態への悪影響が一気に進行する現象だ。高齢者の場合、1週間も寝たままの状態を続けると、身体能力ががくっと落ちる。10~15%程度も筋力が低下し、退院後も、よほどしっかりリハビリしない限り満足に動けなくなり、「寝たきり生活」に突入する人が多い。

 さらに、気分的に落ち込んで表情も乏しくなり、精神的な機能低下に陥ってしまうケースも多々ある。いわゆる「ボケ」が急激に進行してしまうのだ。

 よく、入院した高齢者に対して「長年頑張ってきたんだから、ゆっくり体を休めてください。無理しないで」と声掛けする光景を見かけるが、考えものだ。本人のことを本当に案じるなら、リハビリは一刻でも早く始めるべきだし、指でもなんでも、動かせる部位は可能な限り動かし、使わせなくてはならない。人間の体は、動かすことで健康が保たれるようにできているのだ。

ただの物忘れではない
記憶がすっぽり消えていく

 退院した母親は、足の筋肉がすっかりなくなり、壁づたいか杖なしでは歩けなくなっていた。デイサービスに通わせ、リハビリをしてもらおうとしたが、「痛みがぜんぜんとれていないから動けない」と苦痛に顔をゆがめる。

 兄弟は困り果て、県内唯一の、慢性痛専門クリニックを受診させた。専門医による治療ガイドラインの編集委員にも名を連ねる院長は、筋筋膜性疼痛の可能性も視野に入れ、入念に診察。骨粗しょう症治療で定評がある医療機関に依頼して検査もしてもらった結果、腰椎の骨折が治りきっていないことを見つけた。

 ただしもう入院はさせない。固定用のギブスを装着し、痛みを緩和させる処置はした上で、日常動作は極力自分で行うよう指導された。