弟の留守を見計らい、事務所や得意先を回っていたのだ。弟が気づいてたしなめると、「大丈夫、市内しか行かないから」「気を付けて、安全運転しているから問題ない」「昼間しか運転しない。夜は怖いから。そういう判断はちゃんとできる」「あんたも忙しそうだから自分で運転した」と反論する。

 当初はまだ、認知症にはなっていないように見えていたため、弟は、それほどきつくは言わなかったようだ。

 とはいえ、満足に歩けもしない84歳が車を運転しているのは恐ろしい。

 昨今の、高齢者によるアクセルとブレーキの踏み間違いが起こした重大事故のニュースが流れるたび、「あの加害者だって、これまで無事故・無違反で来た優良ドライバーだったんだよ。もしもお母さんが人身事故なんか起こしたら、お母さんの人生も、僕たち家族の人生もおしまいだよ。何より、もし、孫みたいな子どもたちを殺してしまったらどうするの。悔やんでも悔やみきれないだろ」と説得してきたが、その都度、「車がなければ働けない」と激昂したり、「オラに死ねというのか」と泣きわめいたりされ、失敗した。

 だが、アルツハイマー病を発症していると気づいたからには話は別だ。もはや、運転免許返納に猶予はない。

運転可能か否かの評価と
リハビリも行う医療機関

 高知大学医学部神経精神科医学教室講師の上村直人氏の論文『認知症者の自動車運転能力評価とその課題』によると、日本の65歳以上の運転免許保有者数は2014年度に1600万人を超え、認知症の有病率から考えると、認知症患者の免許保有者数は推定で200万人を超えている。

 また、2009年に日本老年精神学会が行った調査では、運転している認知症患者の6人に1人が交通事故を起こしている。

 2017年3月12日からは、75歳以上の免許更新者が、認知機能検査の結果、認知症の恐れがあると判定された場合、都道府県公安委員会から臨時適性検査の通知か、主治医の診断書提出命令が届き、医師の診察の結果、認知症と診断された場合には、免許取り消しが法制化された。こうした法律の厳格化に伴い、医療機関受診を義務付けられる対象者はなんと、これまでの100倍以上。圧倒的な専門医不足は、深刻な問題になっている。

 そんな中、2017年10月より認知症疑いの高齢ドライバーを対象にした「自動車運転外来」を開設し、全国初のリハビリテーション治療連動型の外来として注目を集めているのが、高知県高知市にある愛宕病院だ。