【出口治明との質疑応答14】
安土桃山時代から江戸前期に
タイで大活躍した
日本人チャレンジャーがいた！

世界1200都市を訪れ、1万冊超を読破した“現代の知の巨人”、稀代の読書家として知られる出口治明APU（立命館アジア太平洋大学）学長。歴史への造詣が深いことから、京都大学の「国際人のグローバル・リテラシー」特別講義では世界史の講義を受け持った。
その出口学長が、3年をかけて書き上げた大著が、なんと大手書店のベストセラーとなり、話題となっている。BC1000年前後に生まれた世界最古の宗教家・ゾロアスター、BC624年頃に生まれた世界最古の哲学者・タレスから現代のレヴィ＝ストロースまで、哲学者・宗教家の肖像100点以上を用いて、世界史を背骨に、日本人が最も苦手とする「哲学と宗教」の全史を初めて体系的に解説した本だ。なぜ、今、哲学だけではなく、宗教を同時に学ぶ必要があるのか？
脳研究者で東京大学教授の池谷裕二氏が絶賛、小説家の宮部みゆき氏が推薦、某有名書店員が激賞する『哲学と宗教全史』が、発売後たちまち第6刷が決まり、「日経新聞」や「朝日新聞」にも大きく掲載された。
9月7日土曜14時、東京・八重洲ブックセンターに約80名が集結。満員御礼の出版記念講演会につづき行われた質疑応答が盛り上がった。今回からは普段、めったに明かされない出口学長と会場のみなさんとの「白熱の質疑応答」を特別にお届けしよう。

安土桃山時代から江戸前期の
日本人はチャレンジャーそのもの

出口　はい、次の方、どうぞ。

――ありがとうございます。「失われた30年」で日本人が変われなかったことが、今の経済的な停滞を招いたとすれば、これからの日本人のマインドチェンジの方法で出口さんが考えていることがあれば教えてください。

出口　この『哲学と宗教全史』の最後を、クロード・レヴィ＝ストロース（1908−2009）にしたのは、「日本人はいない」ことを知ってほしかったからです。
　日本人って何ですか？　一度、定義してみてください。

――今の日本人はチャレンジができなくなってしまっているというか、守りに入ってるような気がします。新しいことにチャレンジする気概がないかもしれない。

出口　それは現在の日本人の特徴ですよね。
　日本人は、戦後の製造業の工場モデルの中で、成功体験を持ってしまった。

　でも、安土桃山時代から江戸前期の日本人は、めちゃチャレンジャーですよ。

　山田長政（1590−1630）って、聞いたことありますか？

　タイ（当時のシャム）で、今の日本でいえば、自衛隊の大将ぐらいになった人です。
　この人が日本で何をやっていたかというのはわからないことが多い。
　駕籠舁（かごか）きじゃないかという噂もある。

　そんなまったく無名の山田長政が、日本でしっかり教育を受けているとも思えません。

　籠を担いでいた長政が他国のタイへ行き、自衛隊の大将にまで上りつめている。

　めちゃくちゃチャレンジングでしょう。

　今日の講演会でも、哲学と宗教は時代の影響を受けていると、なぜ話したかといえば、時代の影響を受けない日本人なんか一人もいないからです。

「日本人のいいところ、悪いところを教えてください」
　という人には、もう1回質問して、
「日本人の定義って何ですか？　それを考えてください」
　といっているのですが、今、日本人がなかなかチャレンジできないのは簡単で、今の社会を牛耳ってる人が、戦後の成功成功体験が大きすぎたということと、投票率の低さでほぼ100％説明できます。

　投票率の問題は、実は算数の問題なのですが、どの社会でも、既得権を持っている人は2割ぐらいいると考えられています。次回に説明します。

――ありがとうございます。

（つづく）