とりわけ怒りは、曺国氏の娘の高麗大学入学を巡る疑惑に集中している。韓国人にとって、徴兵と受験を巡る不正は、絶対に許すことができない「タブー」だ。

 韓国では、サムスンなどの財閥企業に入り安定した生活を得るには、京畿などの名門高校に入り、さらにはソウル大や高麗、延世大などに進学するのが数少ないエリートへの道だ。

 そのために大学への進学率は約7割で、少しでも良い大学を目指して「ヘル朝鮮」と自虐するほどの激烈な競争が繰り広げられる。早ければ2~3歳児から、英語教育などを受ける。

 小学校高学年になれば、塾(韓国では学院と呼ぶ)通いで、帰宅は午後10時という子どもざらにいる。自治体ごとに、午後10~11時ごろから翌朝5~6時ごろまでは、塾の営業を禁じる条例を定めている自治体も多い。

 そうでもしなければ、子どもはずっと勉強し続けることになりかねないからだ。

 塾の先生は「高校時代はお前の人生から削り取れ」と叱咤し、ひたすら勉強を強いる。それほどの競争社会が広がっている。そこに、社会のエリートの子女が努力もしないで入学をすれば、その怒りがどれだけすさまじいか想像もつくだろう。

 そうなると、たとえ違法行為がなかったとしても、大学に何らかの働きかけをしたという事実が認定されれば、曺国氏の政治生命は終わることになるし、批判は文大統領自身にも向けられるだろう。

 なぜそんな状況で、文大統領は曺氏を法相に起用したのだろうか。

国内の支持率が
唯一の判断基準

 確かに曺氏は、日本企業に損害賠償を命じた大法院(最高裁)の元徴用工判決について、反対する勢力を厳しく批判するなど、「文氏の分身」「文氏の代弁者」などと呼ばれてきた人物だ。

 曺氏が法相として、文政権が掲げる「検察改革」を成し遂げれば、曺氏は一躍、次期大統領の有力候補に躍り出るだろう。韓国では過去、大統領が退任後に疑獄事件などで逮捕・拘束されることが繰り返されてきたが、曺氏が後継者になれば、文氏は退任後も安泰だ。

 だがそれにしても、曺氏を起用するリスクは極めて大きかった。それは文大統領自身も強く感じていたようだ。