事前調整型の破産手続きと国有化が同時に打ち出されたことで、GM発大不況のリスクは当面取り除かれたとの報道は多い。だが、オバマ政権演出の凪は嵐の前の静けさにすぎない恐れがある。
ゼネラル・モーターズ(GM)は6月1日、ニューヨーク市の破産裁判所に米連邦破産法第11条(チャプターイレブン)への適用を申請した。写真は申請書の1ページ目のコピー。Photo (c) AP Images |
ホワイトハウスに隣接する米財務省ビルのセミベースメント(半地下階)の一角に、そのチームは居を構えている。
大統領自動車問題タスクフォース――。ティム・ガイトナー財務長官が“名目上”のトップを務め、ウォール街の投資銀行を渡り歩いたスティーブ・ラトナー氏が20人あまりの実務部隊を率いる、ビッグスリー問題の司令塔である。
ゼネラル・モーターズ(GM)とクライスラーの背中を“事前調整型”の破産手続きへと押したのは、ほかでもない、このチームだ。米財務省関係者は、「チーム発足の2月中旬以降、ホワイトハウスの意思は、(両社の)チャプターイレブン(連邦破産法第11条)適用申請を容認する方向へと大きく傾いた」と明かす。
オバマ政権には発足当初、ビッグスリーの法的整理のシナリオはなかったといわれる。彼らが恐れる最悪の事態とはこうだったろう。
日本円にしてそれぞれ16兆円と5兆円の負債を抱えるGMとクライスラーが債権者との事前調整なしに破産裁判所に駆け込み、出口の見えない泥沼交渉に陥る。手続きが紛糾するうちに、部品メーカーやディーラーの連鎖破綻に拍車がかかり、GMの金融関連会社GMACの経営危機に発展し、金融ショックが再び駆け巡る。結局、何ヵ月たっても、GMはチャプターイレブンを抜け出せず、チャプターセブン(清算手続き)に移行する。周辺産業を含め、100万人以上の雇用が失われ、消費が凍てつき、不況がさらに深刻化する――。
では、この恐れは消えたと判断したのか。
今回、破産手続きと合わせて一時国有化の決断を示したことは、政府がいまだこのシナリオを警戒している証しだろう。ただ、確かに「GM破綻を発火点とする金融ショックの発生リスクは低下した」(前出の財務省関係者)とは言える。不幸中の幸いと呼ぶべきか、危機が長期化したことで、金融機関はGMやクライスラーへのエクスポージャーを軽減する時間的猶予を得た。実際、「大口債権者の大半はすでに損失として引き当てずみ」(別の財務省関係者)と見られている。