スクラムだけではない。タックルされた選手がピッチに置いたボールの上で、両チームの選手が押し合いながらボールを奪い合う、ラックと呼ばれる密集プレーへは、相手を弾き飛ばすために率先して突っ込んでいく。巨体を加速させていく勇気と迫力は、見ている側の魂を揺さぶる。

 ラインアウトでロックの選手を持ち上げ、さらに高い位置でボールをキャッチさせる役目も原則としてプロップが担う。ラインアウトから展開されることが多い、ボール保持者が立った状態で密集プレーに持ちこむモールにおいても、プロップは巨体を生かして相手を押し込む仕事を任される。

 連続攻撃を展開している際にバックスの人数が足りなければ、ラインに参加して前へ突進して、再びラックを形成して仲間たちの体勢が整う時間を作ることも珍しくない。黒子に徹し続ける存在にして、まさに「気は優しくて力持ち」を実践し続けられるプロップがいるチームは決まって強い。

稲垣と具が後半途中にベンチに下がれば
日本に勝利が近づいている証拠

 ラグビーには『One for all, All for one』という有名な言葉がある。プロップが体現し続ける美学は「一人はみんなのために、みんなはひとつの目的のために」の精神と一致する。ヒーローはトライを決めた選手になりがちだが、トライに至る過程にはプロップを含めたフォワード陣の献身が欠かせない。

 ラグビーはかつては試合中の選手交代が認められなかったが、1996年から「戦術的入れ替え」が導入されている。ワールドカップを含めた公式試合では、8人を数えるリザーブの選手との交代ができるなかで、左右のプロップの選手が先発フル出場するケースは珍しい。

 30-10で勝利したロシア代表との開幕戦では、後半15分に稲垣が中島イシレリと、ヴァル・アサレリ愛が具と同時に交代。アイルランド戦でも後半13分に具が愛と、同23分には稲垣が中島と交代している。走力をも求められるようになった中で、より心身の消耗が激しくなっているからだ。

 豊田スタジアムで5日19時半にキックオフを迎えるサモア代表戦のプロップには、左に稲垣、右には具が先発する。日本がスクラムで優位に立ち、ラックやモールを押し込み、精も根も尽き果てた稲垣と具が後半途中にベンチへ下がる展開になれば、イコール、日本が勝利に近づいていることになる。