「過去にもやったことがあります。政府管理さえしっかり出来ていれば恐れることはありません」
「円の流通を増やして円がこれ以上下がっても、大丈夫か」
「ここ数日で大幅に下がったとはいえ、今までが高すぎたのです。やっと適正レートに近づいただけです」
「円の大量放出は、日銀が同意しないでしょう。特に現総裁の原山は、過度にインフレを避けようとしています。このデフレ状態にです」
「彼と話したとき、すでに通貨は十分に発行していると言っておりました。状況が好転しないのは、出回っている通貨を市場が十分に活用し切れていないだけだと」
金融庁長官の言葉に財務大臣が反論した。
総理は無言だった。何か指示を出したくとも、経済はまったくと言ってほど理解できていない。自分は法学部出身だ。金融について正しい判断を下すのは、2人の大臣だ。そのために、経済通といわれている2人をあえて任命したのだ。前の大臣は見栄ばかりに気を使って、財務省の言いなりだった。
「個人や企業の手元に保有されているだけだと言うのであれば、多少だぶつき気味に出しても大丈夫だとは思いますが」
金融庁長官が自信のなさそうな声を出した。
横で財務大臣も頷いている。
「そう思ったら、日銀総裁を説得してくれ」
総理は強い口調で言って、閣議に向かった。