頭取たちが言いたいことを言って帰った後、総理はずり落ちるように椅子に座りこんだ。
「今日、インターナショナル・リンクが会見を開く予定です。そのとき、おそらく銀行の格付けを引き下げるでしょう。現状の日本でそんなことが起これば、経済はたちまちガタガタになります。なんとしても、それだけは阻止しなければなりません」
財務大臣が青ざめた表情で言った。
「そこまで分かっていれば、なぜもっと早く手を打たなかった」
「今日の閣議で議題に上げようと思っていました」
今日では遅いんだ。総理は怒鳴りたい気分だった。
「頭取たちの求めている、効果の際立つ政策というのは現状では難しいでしょう。特に今日明日という即効性が求められている場合には」
それを考えるのが大臣だろう。喉元まで出かかったが呑み込んだ。
「この際です。各行に政府資金の注入を行いましょう。もっとも憂慮すべきは銀行の資金ショートです」
金融担当大臣が言った。しかしそれも今日中の決定など望むべくもない。
「そんな金などどこにある」
「アメリカ国債の売却という手もありますが、それはアメリカの猛反発で、市場にさらなる危機感を植え付けるものとなりましょう」
「だったら、どうしろというのだ」
「日銀を動かして、円を刷るしかありません。いちばん緊急性に対応できて、誰からも文句を言われない方法です」
通貨の流通量の調整は、日銀の仕事だ。9名からなる日本銀行政策委員会が、月2回の金融政策決定会合で必要に応じて行なっている。
調整の方法は、市場で国債などを売り買いしたり、日銀が銀行に金を貸すときの金利、つまり政策金利を変えたりしている。
「日銀による国債引き受けか。あれは禁じ手、麻薬のようなものだから手を出すべきではないと聞いているが」
