金正恩氏は今年4月に行った施政方針演説で、「米国は現在の計算法を捨て、新たな計算法を持って我々に歩み寄ることが必要だ」と強調した。

 総括作業を終えた後、新たに任命された金明吉氏らは、金正恩氏の指示を受けて新たな戦略を構築した。

 この新戦略について、韓国政府元高官は、「シンガポール共同声明の原点に立ち戻り、米国がまず、北朝鮮が既に実施した譲歩に見合う対価を支払ってから、実質的な協議を始めるということだろう」と語る。

 北朝鮮はシンガポール共同声明によって、非核化の定義について、北朝鮮だけではなく、米国も義務を負う「朝鮮半島の非核化」とすることに成功した。

 しかも、非核化は、米国が北朝鮮に対する敵視政策を放棄して信頼関係を構築した後にするという約束も取り付けた。

 しかし、北朝鮮にしてみれば、実際は自分たちだけが核実験や大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験を中断し、さらには寧辺核施設の放棄を打診するなど、譲歩を繰り返したことが今の状況を招いたと考えたようだ。

 このため、米国が、米韓合同軍事演習の中断や、米国が独自に行っている制裁の緩和などを約束しない限り、協議には応じないという戦略転換をしたようだ。

 金明吉氏は10月5日、記者団に対して読み上げた声明で、米国による追加制裁や米韓合同軍事演習を批判した。

 朝鮮中央通信も6日に発表した外務省報道官談話で、「米国が対朝鮮敵視政策を完全かつ不可逆的に撤回するための実際の措置を講じる前には、今回のような鼻持ちならない協議を行う意欲はない」と強調した。

 そして、こうした主張はかなり意図して行われたものだともいえそうだ。

 米朝関係筋によれば、米国は今回のストックホルム協議では、核廃棄などの専門家を同席させなかった。

 今回は、今後の実務協議の議題や交渉順序を決めるための会合で交渉の場ではないと位置づけていたからだ。米側が「2週間後に」と言った協議こそ、最初の実質的な非核化交渉の場になるはずだった。

 仮に、北朝鮮がストックホルムで、「ハノイ会談はなかったことにして、ゼロから交渉を始めたい」と言えば、米側はその前提で核廃棄交渉を始めた可能性が高い。

 それでも北朝鮮は、「ストックホルム協議は決裂した」と主張した。きっと、「米側が不当な要求をした」と印象づける場にしたかったのだろう。それだけ、北朝鮮内で経済制裁などに対する不満が高まっていたのかもしれない。