日本のICT企業の凋落が言われてすでに数年が立っている。一時は世界を席巻した分野であったが、韓国、中国が国家の支援を受け、国策として世界に乗り出してからは日本の企業の衰退は著しい。明らかに国家戦略の敗北だ。
そうは言っても、最先端企業の中央研究所といえば宝の宝庫だ。その企業の心臓部で浮沈を握っている部署だ。セキュリティも厳しく、ライバル企業の関係者などとても入れないところだ。
3人は車を降りると、応接室に通された。
森嶋は村津に、船山と鳥井の2人の社長を紹介された。
殿塚は、3人の社長たちとも知り合いらしく、お互いの近況などを話して談笑している。
簡単な会社説明を受けた後、森嶋たちは1階の部屋に案内された。
広さは中学校の教室ほどだが、半円形の部屋だ。半円の部分には正面に3台の大型ディスプレイがセットされている。両側の半円の部分にはやはりディスプレイが並んでいる。180度の映像が映し出されるのだ。
30ほどの独立したデスクが正面を向いて独立して配置され、各自に小型ディスプレイとマイクがついていた。
玉井が持っていたリモコンスイッチを入れた。
中央にある3つのディスプレイにそれぞれ男の画像が現われた。正面の男は森嶋だ。
「大阪と名古屋にもここと同様のシステムがあります。現在、森嶋さんの顔が大阪と名古屋にも映っています」
ディスプレイの中で森嶋が神妙な顔で頷いている。その両側には、見知らぬ2人の男が映っていた。大阪と名古屋の2人だろう。
「どうです。見えてますか」
玉井が呼びかけると両側から声が聞こえ、ディスプレイの2人が手を振っている。
「発言者を正面のディスプレイに映します。同時に資料なども映すことが出来ます。さらに、その他の巨大ディスプレイにはデスクに座った全員の姿をパノラマで映しつつ、360度カメラが自動で発言者を探知して、別のカメラでズームインします」
現在は正面の中央ディスプレイには、発言者の玉井の顔が映っている。