「新しいテレビ会議システムです。NTC、ヤマト、そしてユニバが共同開発いたしました。ユニバとNTCが主にソフト部門の開発を行ない、通信関係を含むハード部分はヤマトが中心になって開発しました。取りまとめは、ユニバがやらせていただきました。まさに、日本のICT技術の総決算ともいえるものです」
玉井が、同意を求めるように2人の社長のほうを見た。
2人とも納得した表情で頷いている。
「従来のものとどう違うのです」
殿塚が聞いた。
「スケールです。現在の技術でも、50人程度のテレビ討論が可能です。将来的には100人、200人単位の会議が開けるようになるでしょう」
「つまり市町村レベルであればテレビ議会が開けるということですな」
明らかに道州制のことを考えているのだ。
区分けされた地区の統治にはかなり大規模な議会が必要となる。それがこのような形で開かれるとなると、かなり小さな規模の政府で足りる。
「中央のディスプレイには議長、その左右には質問者と解答者の映像が出ます。左右には他の議場の出席議員の姿が映される。それらすべてがインターネット配信されて、国民のすべてが見ることも可能です。こうなると居眠りも出来ないし、ヤジも飛ばせません。メールを打ったり新聞を読んだりも出来ません。先生方には少々不満かもしれませんが」
「投票はどのように」
「各議員が手元のスイッチで意思表示が出来ます。その集計は前方のディスプレイ上に現われます。もちろん記名、無記名、どちらも瞬時に累計できます。また質問する側の資料は別のディスプレイで映すことが出来ます」
「しかし緊張感が薄れませんかな。何百キロも離れていては。面と向かい合って討論することにより、緊張感が生まれる」
「向かい合うべきは国民です。このシステムは全国配信が可能です。その気になれば、国民も議会に参加している気分になれます。先生方がイヤでなければ実際に参加もできます。だがそれは、ムリでしょうがね。技術的には問題ありません」
「議員定数を半分にすれば、こちらの方が遥かに効率的で、便利かもしれない。国民参加も可能になる」
「新しい首都にはこれらのシステムが導入されるのですか」
森嶋が玉井に向かって聞いた。
「それは国が決めることです。実際に採用されるものは、遥かにグレードアップしたものになります。ただ、まだ何年も先の話です」
「いや、そうも言っていられなくなりました。総理による首都移転の提案が近いうちになされます。同時に具体的な都市モデルもね」
村津が言った。他の者たちの視線が村津に集中した。
「その中に電子議会システムの開発状況も含まれます。ただし、これは1つの手段です。だが小さな政府の実現には必要なものでしょう」
2時間に渡るデモンストレーションを含む見学の後、3社のエンジニアから今後の開発研究計画の説明があった。
「今後、2年以内に実用化を行ないます。皆さんがご覧になったものは新しい会議システムに留まることなく、さらに大規模な会議システムにも応用できるでしょう」
控えめな言い方だが、現在の国会に相当する新しい議会のやり方を目指していることは明らかだった。このシステムが実用化され、国のみならず地方議会にまで広がれば、国民の政治に対する意識は大きく変わるだろう。
(つづく)
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