車は高速道路を下りて30分ばかり走った。

 前方に高い塀に囲まれたモダンな建物が見えてきた。

 車は株式会社ユニバ、中央研究所の看板のある敷地に入っていった。

 正門を入ったところにある警備員室前で止められた。

 連絡はすでに入っているらしく、警備員は丁寧な口調で行き先を運転手に教えている。

 それでも各自身分証明書の提示を求められ、顔写真とのチェックをされた。

 広い芝生の中央に5階建のビルがある。ユニバの中央研究所だ。ここでいくつかのIT製品の世界的ヒット商品が生まれている。

 研究所前に車が止まると、ユニバ社長の玉井が出てきた。一度、長谷川の事務所で会ったことがある。背後には同じ制服を着た10名あまりの男女が立っている。

 玉井の隣に見覚えのある2人の男が立っていた。

 1人はNTCの船山浩二。もう1人はヤマトの鳥井次郎だ。2人とも社長だ。

 NTCは日本を代表する電機メーカーのひとつだ。戦後すぐに設立され、日本初のテープレコーダーやトランジスタラジオで成功、海外への大量輸出で一気に成長した。自社開発の技術にこだわり、そのために世界標準の壁に阻まれて失敗することも多いが、その独自性によって多くのユーザーの支持を得てきた。

 音響、映像といったAV機器では世界最大手であり、その他エレクトロニクス、映画、ゲーム、金融など多分野を包括してそれぞれが世界屈指のブランド力を持っている。資本金3300億円、昨年の売上高はおよそ7兆5000億円。17万人もの従業員を抱えている。

 ヤマトもまた、日本を代表する総合電機メーカーだ。資本金6500億円、昨年の売上高は9兆円を超える。従業員は36万人を数える。

 取扱製品は情報通信、電力、産業、電子デバイス、建設機械、高機能材料など11部門で構成される、現在その中心にあるのが情報処理システムや電子デバイスで、国内1位、世界で3位の総合ITベンダーとして名を馳せている。世界70ヵ国でビジネス展開しており、大企業向けの大規模システムを得意とする。ヤマトが開発したスーパーコンピュータは世界ランキングで何度も首位を獲得している。

 日本を代表するICT企業の社長がなぜ、そろってユニバの研究所にいるのだ。この3社はライバル企業でもある。