生育予測を軸に、一貫した栽培支援の技術体系を作る
下妻市から南へ約40キロメートル。茨城県南でも、コメ栽培に関係する別のスマート化に向けた実証実験が始まっていた。「関東平坦部における栽培管理支援システムとスマート農機の連携による大規模水稲作営農体系の実証」と名付けられたプロジェクトでは、5つの技術体系の検証が、19年から順次始まっている。
生産体系研究領域
吉永悟志領域長
つまり、①圃場(ほじょう=水田)水管理システムと配水管理制御システム、②自動運転田植機、③ロボットトラクター、④食味・収量コンバインとデータ連携選別機、⑤栽培管理支援システムと営農管理システム、の5つだ。
農研機構や茨城県農業総合センター、機械メーカーなどで組成されている実証プロジェクトで、代表を務める農研機構中央農業研究センター生産体系研究領域の吉永悟志領域長は、「ICTを活用して適切な作業と管理を施し、収量や品質を優れたレベルで安定させ、さらに省力化機械とも連動した『データ駆動型スマート農業の一貫した技術体系』を実証しようとしています」と説明する。
実証1年目の19年に、まず報告されたのが「①圃場水管理システムと配水管理制御システム」。水田の水の管理を遠隔・自動制御化するシステムだ。一般の人にはイメージしづらいが、実は水田の水管理は、農業者にとって気の抜けない、体力を使う、危険も伴う作業だ。
コメを育てる過程では、苗の活着を促したり、分げつの発生を促したり、低温から保護したり、耐倒伏性を強化したりするために、常に微妙な水深管理が水田ごとになされている。また中山間地では給水栓のある場所まであぜが急勾配になっているケースが少なくない。
「水管理システム」は、各水田に据えられた水位・水温センサーと、自動で給水栓の開閉と給水量を管理する「給水側制御装置」、水田から水を抜く栓を開閉する「落水側制御装置」などから成る。それぞれの稼働データは、簡易基地局を経由してサーバーに蓄積される。また各水田の水管理と、土地改良区が管理するポンプ場や分水工など配水施設までを1つのシステムとして扱える「配水管理制御システム」も開発した。
農業者はスマートフォンなどで水位を確認し、給水や落水を遠隔で制御できるというのがシステムの基本的な稼働スタイルで、19年の記録では遠隔制御期間中の見回り回数は83%も削減された。だがシステムは、給落水の作業回数を減らそうとするだけにとどまるものではない。これをよりスマート化しようというのが今回のプロジェクトの狙いだ。
例えばメッシュ農業気象データとコメの発育予測モデルを用いて、幼穂形成期、出穂期などを予測し、これを基に中干しや落水のスケジュールに沿った自動水管理を実施する。さらに、各水田が必要とする水量データを基に、ポンプ場から最適な用水量を自動で配水することで節水や節電につなげることも可能になるのである。