稲刈り作業と同時に水田別の品質データも分析する
さらに興味深いのが、「④食味・収量コンバインとデータ連携選別機」。「作物を収穫すると同時に、収穫物を分析できる機能を備えたコンバイン」である。今回のプロジェクトでは、クボタ製のコンバインが使われている。食味・収量コンバインは、収穫作業を行いながら特殊なセンサーにより水分やタンパク質の含有量と収穫量を推定できる。しかもコンバインはGPS機能を備えているので、どの水田のどの場所で収穫されたコメであるかを記録してもいる。
「5~20メートルメッシュで、水田内、水田ごとのコメの水分やタンパク質含量および収量をデータとして集め、データは無線ネットワークでクラウド上に集約されます。同じ日に植えた同じ品種なのに、なぜ水田ごと、また同じ水田なのに場所によって違いが出てくるのか。栽培管理の履歴や土壌分析データと合わせることで総合的な分析が可能になります」(吉永領域長)
19年の実証調査では、ある農場でのコシヒカリの水田ごとの推定収量では、平均値に近い群の中でも25%程度の差があった。素人には、どの水田も黄金色の穂が同じように実っていると思えるが、実は「収量や品質の安定化」という意味では、まだまだばらつきが大きく、かつ多く発生しているのである。
さまざまな取り組みから得られる膨大なデータを活用した「⑤栽培管理支援システムと営農管理システム」の構築は、いわば「失敗しない農業への究極の挑戦」だ。栽培管理支援システムでは、発育予測や収穫適期診断、各種の病気の発生予測、作付け計画の支援情報などを提供しているが、営農管理システムとの統合により総合支援システムへの拡大も期待される。
栽培管理支援システムは19年春から本格運用が開始され、各地で利用され始めているが、プロジェクトに参加している農場では「あきだわら栽培管理支援システム」の実証が行われている。農研機構次世代作物開発研究センターが作成した「あきだわら栽培マニュアル」に、発育予測情報を組み合わせてシステム化したものだ。
水田や品種、生育診断に必要なデータ(草丈や1平方メートル当たりの茎数など)、施肥する肥料の種類などを入力すると、必要な施肥量、施肥日などを推測・提案する。19年は2カ所の実証試験で、出穂1カ月前の時点で出穂期予測を行い、2日以内の誤差で予測することができた。また、このような発育予測と生育調査をもとに追肥を実施した結果、台風の影響で倒伏を生じたものの、本システムに基づく追肥施用による増収効果が確認されている。
「ベテランの農業者が持っている経験則と、その年の気象データなどから得られる予測値の比較検討、実測値のさらなる活用などを通じて支援システムとして精度を上げ、多品種に対応できる判断基準を提示していきたい」と吉永領域長は語る。
日本のコメ作りが、新しい時代に入ろうとしていることを深く実感させられたのだった。
(※※印の画像提供:農研機構中央農業研究センター)
茨城県南での実証プロジェクトに参画する
若手農業者たち
横田修一社長
(横田農場)
「耕作面積が拡大すればするほど『今年は駄目だった』とは言えないリスクが増します。また新しい品種に挑む際にも大規模故にリスクが増します。事業を持続的にするためにもシステムとデータを背景とするリスクを低減した栽培の技術体系が必要です」
山口貴広社長
(YAMAGUCHI farm)
「茨城県では約100ヘクタールの耕作面積を持つ農業者を育てる『メガファーム構想』を推進し、私も3年間で拡大する計画でいますが、耕作面積の拡大に伴う人材確保の見極めは難しく、最低限の人数での経営を志向するためにもスマート化が不可欠です」
内藤貴通社長
(KファームNAITO)
「私もメガファームのメンバーで、現在の約50ヘクタールを3年後をめどに約100ヘクタールに拡大する計画です。今回の実証では収量コンバインによるデータを特に興味深く感じており、明確で根拠のある分析を通じて大規模化の課題を解消していけるのではないかと感じています」