田舎に越してきて生活のリズムもだいぶ変わった。田舎は夜が早い。20時といえば都会ならこれから盛り上がるゴールデンタイムだが、田舎の20時はしんと静まって地域一体がもう眠らなくてはならないかのような気配を醸成する。

 都会から田舎に行って1泊するくらいなら「もう眠らなくちゃいけないとか無理ですよ、都会人としては!」と都会人ぶった不満を漏らすかもしれないが、田舎で生活しているとそれが当たり前に感じられてくるので、22時になった時計を見て、「ああもうこんな時間。今日も一日お疲れさまでした」と素直に翌日に備える気持ちになれる。夜中の2時頃に近所に帰ってくるバイクの音を聞き、「○○さんとこの息子さんは超弩(ど)級の不良」と感じられる土地柄であった。

 どこかに行くには車が必需品だが、下駄として使えればいいので適当な安い中古車があれば事足りる。日用品の買い出しには車を使っているが、Amazonや楽天は注文すればすぐ届けてくれて非常に優秀なので通販を利用することも多い。

 最寄りのコンビニは意外に近く、徒歩で10分ほどの距離である。ここでもセブン-イレブンとローソンが何店舗かでしのぎを削っているので、生活に不便している感はまったくない。何しろ巨大なホームセンターやショッピングモールが都心に住んでいた頃とは比べ物にならないほど近くにあるので、むしろ便利になった感はあった。

 そういえば、都会では深夜、ドン・キホーテにとっぽい若者が集う文化があるが、あれと似た現象は田舎にもあった。近所にドン・キホーテはなく24時間営業のホームセンターがあるのだが、そこに日中は見かけない、その土地でワルと呼ばれている…であろう若者がちらほら現れるのである。

「マイルドヤンキー」の典型たる彼らは、店の前で肩を怒らせてたばこを吸い、入店客を片っ端から目で威嚇して局所的に治安を悪化させているが、その時間に訪れる客は同様のやからか、眠れないか早起きしたかの高齢の男性がほとんどである。深夜の客として高齢の男性の割合は非常に多く、マイルドヤンキーとはすむ世界が違うので、もめ事には発展しない。害意のない高齢男性と目に入るものすべて威嚇したいマイルドヤンキーの決して交わらない平和な競演を、田舎の深夜のホームセンターでは楽しむことができる。

 なお、治安は悪くない。

 入居を決める前にネットで情報収集を試みたところ、「治安が悪い」という評判を複数目にしていてある程度の覚悟はしていた。内覧の際に不動産会社の担当者にそのあたりについて尋ねると、「自分もこの近くに住んでいるがそう思ったことはない」と答え、汚れた心で事実を取り繕ったうそかと勘繰っていたのだが、担当者の言ったことはおそらく真であった。

 越して4ヵ月ほどになるが、治安が危ぶまれるのは深夜のホームセンターと遠くの国道から聞こえてくる暴走族のものらしきエンジン音くらいで、至って平穏であることを知り、かつて疑ったことを不動産会社の担当者に心中わびた。田舎暮らしで警戒すべきは「ならず者」より「虫」である。

 後日、後編の記事では田舎暮らしにつきものの虫問題や、ご近所付き合いとその土地の人柄について触れる予定である。