子どもの目に入らないようにする

 では、子どもたちに制限を設けるのはどうなのでしょう。設けるべきか、やめるべきか? 

 研究では相反する発見が示されていますが、それはおそらく、不健康な食べ物を制限するにはほかにも方法があり、そのなかには子どもの長期的な食欲と体重にとってよりよい方法があるということを反映していると思われます。

 確かに、あからさまな制限(たとえば、透明な瓶に入ったクッキーをキッチンの見えるところに置き、子どもは眺めるだけで食べられない状態)は悪影響をもたらすかもしれません。ところが、目立たない制限(子どもが気づかないような制限。たとえば、チョコレートバーを家に置かない、学校から歩いて帰宅するときにパン屋の前を通らない、といったこと)であれば、子どもの欲求をあおることなく、不健康な食べ物や飲み物を最も効果的に制限できるでしょう。

 ただし、制限しすぎてはいけません。子どもが食べるものを親がすべて決めることが制限ではありません。理想的な方法は、赤ちゃんがさまざまな選択肢のなかから体にいい食べ物を選べるようにすることです。たとえば、1回の食事で野菜を数種類出すなど。

 そうすれば赤ちゃんは自分がコントロールしているように感じ、選択肢を持てますし、親も赤ちゃんの能動的な選択に確実に制限をかけられます。

 赤ちゃんがまだかなり小さいときは、制限する重要性は実感できないかもしれませんが、これは離乳食を始めたときから意識すべきです。というのも、赤ちゃんは(家のなかでも外でも)周囲にある食べ物に急に興味をもつようになるからです。もちろん、あなたが食べているものにも。

 不健康な食べ物を制限し、子どもが健康的なものをたくさん食べるようにする効果的な方法は、あなたがお手本になることです。子どもは親の真似をするもので、これは「モデリング」と呼ばれています。

(本原稿は、『人生で一番大事な最初の1000日の食事』〈クレア・ルウェリン、ヘイリー・サイラッド著、上田玲子監修、須川綾子訳〉からの抜粋です)

クレア・ルウェリン(Dr. Clare Llewellyn)
オックスフォード大学卒業。乳幼児の食欲と成長についての遺伝疫学の研究で博士号を取得。ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン准教授。同大学公衆衛生学部疫学・保健研究所の行動科学・健康部門において肥満研究グループを率いる。人生の最初の瞬間からの摂食行動を探求するため、史上最大の双子研究「ジェミニ」に参加。また、子どもの食に関して70以上の科学論文を発表。英国王立医学協会ほか、世界中で40以上の招待講演を行っている。英国肥満学会、欧州肥満学会、米国肥満学会などの研究機関から多数の国際的な賞を受賞している。

ヘイリー・サイラッド(Dr. Hayley Syrad)
心理学者。2007年にサウサンプトン大学で心理学学士号を、2016年にユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの保健行動研究センターで行動栄養学の博士号を取得。乳幼児が「何をどう食べるか」に関して食欲の役割に焦点を当てて研究。幼児の摂食行動について、多数の記事を執筆、注目を集めている。

監修者:上田玲子
帝京科学大学教育人間科学部教授。幼児保育学科長。博士(栄養学)。管理栄養士。日本栄養改善学会評議員や、日本小児栄養研究会運営委員なども務める。乳幼児栄養についての第一人者。監修に「きほんの離乳食」シリーズや、『はじめてママ&パパの離乳食』『マンガでわかる離乳食のお悩み解決BOOK』(いずれも主婦の友社)など多数。

訳者:須川綾子
翻訳家。東京外国語大学英米語学科卒業。訳書に『EA ハーバード流こころのマネジメント』『人と企業はどこで間違えるのか?』(以上、ダイヤモンド社)、『綻びゆくアメリカ』『退屈すれば脳はひらめく』(以上、NHK出版)、『子どもは40000回質問する』(光文社)、『戦略にこそ「戦略」が必要だ』(日本経済新聞出版社)などがある。