景気停滞と米利下げを受けて
追加緩和へ動いたECBへの評価
欧州中央銀行(ECB)は9月12日に開催した定例の理事会で、金融緩和策を強化した。
ECBは2018年12月、いわゆる量的緩和に相当する資産買取プログラム(APP)を終了したばかりである。金融緩和の回収に向けた動きを進めたかったECBであるが、景気の停滞や米国の利下げを受けて、むしろ緩和の強化を余儀なくされた。
緩和の具体的な内容は次の通りである。
まず、金融機関がECBに預金をする際に適用される預金ファシリティ金利を、年▲0.40%から▲0.50%に引き下げた。ただしこの深堀りしたマイナス金利が適用される範囲は、金融機関の収益に配慮するため、一部に限定されることになった。
さらに、昨年12月に終了したAPPを再開し、月額200億ユーロの追加購入を無期限(オープンエンド)で実施することになった。加えてTLTROと呼ばれる貸出条件付き長期資金供給オペの条件を緩和したり、金融緩和の先行きのガイダンスを強化したりするといった包括的な金融緩和パッケージが導入された。
しかしながら、今回のECBによる追加緩和の効果は、それほど大きくないだろう。すでに欧州の金利の水準は低く、追加緩和で金利がさらに低下しても需要が刺激されるとは限らず、金利差の縮小によるある程度のユーロ高抑制効果くらいしか見込めない。欧州の金融緩和は限界に近づいているといっても過言ではない。
金融政策に緩和の余地がないなら財政を拡張すべきだが、ドイツを中心に健全財政志向が強い欧州では、そうした展望は描きにくい。財政規律が緩み切った日本とは真逆であるが、一方で日欧はともに景気の下支えを金融緩和に依存してきた。その結果、日本と欧州は金融緩和の効果には限界があるという共通の事実に直面している。
真逆の日欧が露わにした
金融緩和の限界
日本の政府が抱える巨額の債務は、日銀による強力な金融緩和で何とか支えられている。この金融緩和を「モルヒネ」に例えて、日本経済は「モルヒネ経済」であると表現するエコノミストも数多い。モルヒネは強力な鎮痛作用がある一方で、強力な依存性を持っている。そのため利用に当たっては、適切な取り扱いが必要である。