2012年度の全米文系大学生の「就職先人気ランキング」(Universum社調べ)で、ウォルトディズニー、国際連合に続いて“あるNPO団体”が第3位を獲得した。それが、教育NPO「ティーチフォーアメリカ(TFA)」だ。TFAは、全米から自己成長意欲が高く、情熱のある若手人材を集め、必要なトレーニングを提供し、困難な状況にある学校に2年間教師として送り込むというプログラムを実施。アメリカで深刻な社会問題となっている教育格差の是正に大きな成果を挙げている。

そして今、TFAの活動は世界25ヵ国に広がっており、日本における活動で先頭に立つのが2010年7月に設立された「ティーチフォージャパン(TFJ)」の代表理事・松田悠介さんだ。日本でも子どもの7人に1人が貧困状態にあると言われる今、TFJも自己成長意欲が高く、情熱のある若者を教育現場に派遣し、学習困難な状態にある子どもをサポートし、教育格差の是正に取り組んでいる。前編である今回は、松田さんがTFJを通じて見てきた今の日本における“教育現場の真実”を探る。

教育格差の解消とリーダー育成が同時に!?
超エリート学生が集う“教育NPO”の正体

石黒 実は、松田さんにお会いするまでティーチフォージャパン(以下、TFJ)を詳しくは存じ上げなかったのですが、改めてどんな組織か教えていただけませんか?

まつだ・ゆうすけ/ Teach for Japan代表理事。1983年千葉県生まれ。2006年日本大学文理学部体育学科卒業後、体育科教諭として都内の中高一貫校に勤務。体育を英語で教えるSportsEnglishカリキュラムを立案。部活指導では都大会の予選ですら勝つ事ができなかった陸上部を全国大会に導く。その後、千葉県市川市教育委員会教育政策課分析官を経て、2008年9月ハーバード教育大学院修士課程(教育リーダーシップ専攻)へ進学し、修士号を取得。卒業後、外資系戦略コンサルティングファームPricewaterhouseCoopersにて人材戦略に従事し、2010年7月に退職。Teach for Japan創設代表者として現在に至る。
Photo by Toshiaki Usami

松田 TFJは、教育格差是正を目的に、自己成長意欲が高く、情熱のある人材を2年間教師として学校現場に派遣するという、22年前にアメリカで立ちあがったティーチフォーアメリカ(以下、TFA)のモデルを日本でも広めようと設立した組織です。

 教育格差の是正を考える上で一番重要なのは子どもの前に立つ「人」です。アメリカの場合、教育貧困地区に意欲が高く、情熱のある先生が集まらないために良い教育ができず、この地域の子どもたちは高校さえ卒業できず、就職もままならない状態に陥っています。TFAの創設者であるウェンディ・コップ氏は、そうした問題を解決するためにTFAを設立し、毎年1万名以上の意欲が高く、情熱のある人材を最貧困地区の教育困難校に派遣しています。

石黒 派遣される人たちは、元々先生になりたい人ばかりなのですか?

松田 そういう人ばかりではありません。アメリカの場合、教員免許の有無にかかわらず子どもに教えられる仕組みがあるので、TFAで行う5週間の合宿形式の事前トレーニングを経た様々な分野(法律、経済、政治など)の自己成長意欲が高く情熱のある人材が学校現場で教えています。そして今やTFAは、2012年度文系学生就職先人気ランキングで3位になり、ハーバード大学卒業生の18%がTFAの採用試験を受けるほどです。

 結果的に、短期とはいえ課題解決できる人材が課題山積の学校現場に入って、2年間徹底して課題を解決していくことで、教育環境は改善されています。ある学校ではTFAから3、4人の先生が派遣されて、2割前後だった進級率が90%に改善しています。

 そして同時に、今まで教育をキャリアとして考えなかった人材を教育界に巻き込むことができています。TFAに入ってくる人材に、当初「2年間のプログラム終了後、自分は教育の分野に残っていると思いますか」と質問をしたところ、「はい」と答えた人は6%しかいませんでした。しかし、実際には2年後、70%近くの修了生が教育の世界に残ることになります。2年間徹底して困難を抱える子どもたちと向き合うことで当事者意識を持ち、教育こそこの国を支えていくことだと彼らは認識してくれるのです。