途上国だろうが先進国だろうが、最も重要な政策課題は教育だろう。教育のレベルがその国の国力を決める。途上国支援においても、教育支援が最も効果的であることは国連や世界銀行の調査でも分かっている。言論の自由が保証されている国の方が経済も成長するという調査レポートもあるが、自由な言論のためには読み書きの能力が必要で、初等教育、中等教育の充実が経済成長のためにも必要ということでもある。日本が世界第2位の経済大国に上り詰めることができたのも、教育レベルの高さゆえであることは論を待たない。
その日本の教育レベルが低下している。これは多くの人が実感しているし、OECD調査(生徒の学習到達度調査)の結果もご存知かと思う。たとえばすべての学習の基礎となる総合読解力は65ヵ国・地域中8位。1位の上海、2位の韓国に大きく負けている。
かつては世界一と言われた数学でも、数学的リテラシーの平均得点は9位。ちなみに1位は上海で以下、シンガポール、香港、台湾と続く。今後、さらに競争が激化する東アジアにおいて、日本は競合国に対して完全に負けている(2009年調査)。
こういった現在の数字だけでなく、筆者が危惧しているのはその教育の中身、レベルである。前述のOECD調査では数学的リテラシーは今のところ、イギリスに勝っている。しかし、実際の中学校数学のカリキュラムレベルはイギリスにも負けている。イギリスの中学で習う内容を日本では習わないので、高校から留学するとイギリスの高校の数学を日本からの留学生が理解できない。生徒の学習姿勢にも差があり、韓国の高校生は授業以外で1日10時間くらい勉強するのが普通だが、都立高校の生徒の半数以上は自宅では1分たりとも勉強しないという。このような、カリキュラムレベルの差、学習意欲の差が、日本の子どもたちの学力をさらに低下させるのではないかと思うわけだ。
この学力低下に反比例して、世界では学歴の超インフレ時代に突入している。これも多くの日本人にはあまりアナウンスされていない。アメリカではMBAホルダーがピザ配達の仕事をしている。昨年からの欧州経済危機の影響もあり、世界ランキング4位のロンドン大学を卒業した学生が就職できず苦労している。もはや、ハーバード大学のビジネススクールでMBAをとるとか、オックスブリッジでPh.Dを取得するとか、そういったレベルでなければ世界の一流企業には就職できないのではないか。そんな状態になっている。
世間を賑わした東大・秋入学。
制度変更の前にすべきこと
世界が超高学歴時代になっているということは、大学も世界中から優秀な学生を集めることが生き残るための重要な要件となっている。ランクの高い大学を出なければ良い就職が難しいが、ランクを上げるためには優秀な学生を獲得する必要がある。日本でも世界でも事情は同じなのだ。