東京2020のマラソン・競歩会場が札幌に移転したことに対して、小池百合子・東京都知事が「合意なき決定だ」と噛み付いて話題になっている。東京五輪だけを考えれば、ここでゴネるのは得策ではない。むしろ、来年の都知事選を見据えて、小池知事は「既得権益と戦う女」というセルフブランディングを早くも始めたと考えた方がしっくりくる。(ノンフィクションライター 窪田順生)
小池都知事の怒りアピールは
情報戦としては「悪手」
「あってはならない決定だ」「死ぬまで心から消えない」――。
東京2020のマラソン・競歩が東京から札幌へと会場変更されたことを受けて5日、日本陸連が会見を催して、マスコミの前でIOCに対する「恨み節」を並べた。
みなさんの無念はよくわかる。日本陸連や強化チームはとにかく「東京でのメダル獲得」を至上命令として、ここまで何年も準備してきた。報道によれば、コースを入念にチェックして、本番の時間帯にどの辺りが日陰になるなども細かく分析していたという。
それに費やしてきた時間、苦労がすべてパア。そんな理不尽な話に、怒らない方がどうかしている。もはやこの決定は覆すことはできないが、彼らのような立場の人が、このような怒りを爆発させることは決して悪いことではない。負の感情をリセットして、新たな戦いへ向けてマインドセットができるからだ。
ただ、その一方で、どう考えても怒りをぶちまけない方がいい人まで、ケンカ腰になっていることが気にかかる。もちろん、感情的にIOCに対して不平不満があるのはわかるが、「あなたの立場でそういうことを言うと問題がこじれるだけでしょ」という人までが、ここぞとばかりにマスコミを前に「私怒っていますアピール」をしているのにどうにもモヤモヤしてしまうのだ。
ここまで言えば、カンのいい方はお気づきだろう。そう、小池百合子・東京都知事だ。
小池氏といえば、札幌への変更が正式に決定した会談で、IOCのジョン・コーツ調整委員長に何か言うことはないかと水を向けられてこのように述べたことが話題になった。
「IOCに同意はできないが、最終決定権限をもつIOCの決定を妨げることはしない。あえて言えば、合意なき決定だ」
これを聞いて、「アメリカの犬になっているIOCによく言った!日本をナメんじゃねえぞ!」と溜飲の下がった方も多いかもしれないが、東京五輪を成功に導くというゴールへ向けた「情報戦」ということで言ってしまうと、「悪手」以外の何物でもない。