後閑:入院中、その奥さんはずっとディズニーのパジャマを着ていたので、「ディズニーがお好きだったんですか?」と聞いたら、「ディズニーが好きというか、ディズニーランドに子どもたちと行くのがすごく好きだったから、少しでもその時の気分を味わえたらと思って」と言われました。意思疎通ができなくなっても、常に周りはディズニーのグッズであふれていました。
 好きだったことや物にも思い出が宿って、本人にとっては宝物ですし、ご家族にとっても何かしてあげられた気持ちになるものと思っています。

廣橋:看取りは、長い物語の終着駅であり総まとめです。物語を締めくくる大事な場面ですので、どんな人生だったかという物語の話をするのはいいと思いますし、大事なことだと思います。
 最後に着る服は、その象徴かもしれませんね。

後閑:そうですね。
 私たち医療者は、病気で入院してきた後の、具合が悪い状態という、切り取られた人生の一部分しか見ることができません。ですから、どういう人生を歩んできたかということがわからないまま、何となく症状に対する治療を始めてしまいますが、どう過ごしてきて、どういう物語を続けてきて、最後までどういう物語を続けたいと思っているのか、それを支えるための医療が提供できたらいいと思うので、「こんなことを先生に言ってもいいのかな」と思わずに、ご家族にはご本人の物語を医療者に話してほしいです。

がんを抱えた大切な人を支える家族に知っておいて欲しいこと
●治療を支えるために最初から緩和ケアを受けること
●治療しながら最期まで、本人が人生で大切にしているものを重視すること
●最期に過ごす場や鎮静をどうするかという意思決定を事前に本人がしておくこと、それを家族が知っておくこと、その準備をしておくこと、このために医師に聞くこと話すことをためらわないこと。