医師は聞かれないと言ってはくれない
後閑:廣橋先生がすごく適切なタイミングで説明していたんでしょうね。
たとえば、最後苦しさが取れなくなってきたら眠らせて苦しみをとることもできるということを一般の人は知りませんよね。そういうことを事前に適切にお話しされていたのだろうと思います。すべての先生が廣橋先生のようにうまく説明できているわけではないでしょうし、言ってくれない医師のほうが多いように思います。
廣橋:そうですね。聞かれないので言わないということは多々あります。
医師も悪い話を自分からは言いにくいものなので、医師が話しやすいきっかけ作りを患者さんにもしていただけるといいかと思います。
ですがその内容が医師だけでは説明しきれないもので、十分な情報提供や時間が取れないようならば、特にがん患者さんなら、がん相談に乗ってくれる相談員、ソーシャルワーカー、看護師といったサポートする体制が日本には複数できているので、次につなげることも可能です。ですから、そういったことを気にしているというサインを患者さんがまず出していくことが大事です。
後閑:そうしないと、症状が出てから対応する、困りごとが出てから対応する、という後手後手になって、結局痛みが取れなかったり、苦しんで困ったまま最後を迎えるということになってしまいますよね。
廣橋:そうなんです。がんの場合は基本的に先が読めます。だいたい経過というのはわかります。なのに、後手後手になってしまうのはすごくもったいないことです。
先回りして準備できていたら、必ずもっとラクな過ごし方ができます。そういったことを知っておいてほしかったので『素敵なご臨終』という本を書いたんです。
後閑:緩和ケアの定義にも、「苦しみを緩和するだけでなく苦しみを予防する」ということがありますよね。
緩和ケアは痛くなってから行くところではなく、痛くなる前、困る前からかかることで、あらかじめ困る芽を摘んでおくということもできますから。
廣橋:緩和ケア病棟だと、そろそろ死が近いとなった時に医師は今の症状と今後の見通しについて話をするのですが、担当の看護師に同席してもらって、実際に亡くなる時にどういう付き添いをしたいのか、亡くなった後のご葬儀の話、私たちが「お清めの服」と呼んでいる、亡くなってお帰りになる時の服装をどうしたいのかを確認したりします。そして病棟の倉庫にお清め服を用意しておきます。
先ほどの患者さんはフラダンスの衣装でしたが、この辺りは下町で祭りも多いから祭りの法被で帰りたい人もいれば、背広の人も着物の人もいます。こういった話をすることで、その人が元気だった頃のイメージをみんなで話し合えるので、それをきっかけにいいコミュニケーションがとれるようです。
後閑:その人の今だけでなく、過ごしてきた人生の物語を知ることにもつながりますよね。
最後に着せたい服なんて、いちばん好きで気に入っていたか、思い出があったものでしょうし、そういうことをご家族と話すこともグリーフケアにつながったりもするかなと思います。
脳腫瘍で亡くなられた40代の女性はご主人に看取られたのですが、「ミニーちゃんのパジャマを着せてほしいです」と言われたんです。