大規模な稲作経営における
「多収・輸出・低コスト」への取り組み
巣南営農組合 江尾(えび)泰之理事、
岐阜県農政部農政課スマート農業推進係 福井一輝技術主査
岐阜県瑞穂市で、164ヘクタールという広大な圃場を経営する巣南(すなみ)営農組合を舞台に行われているのが「スマート農業を活用した高度輪作体系(3年5作)の構築による超低コスト輸出用米生産の実証」だ。
3年5作とは、1つの圃場で3年をかけて①コメ「みつひかり」→②コメ「にじのきらめき」→③小麦「タマイズミ」→④コメ「ハツシモ」→⑤小麦「タマイズミ」を輪作していくものだ。みつひかりは極多収のハイブリッド米(異なる品種をかけ合わせたもの)、にじのきらめきも多収米で高温耐性と耐倒伏性に優れ、ハツシモは岐阜県特産のブランド米で、水分をあまり吸わないためすし用の高級米として人気がある。いずれも輸出を想定している。タマイズミは本州では珍しいパン・中華麺用の品種だ。
実証プロジェクトでは26ヘクタールの圃場を使い、土地利用率の向上を実現する技術の構築を目指して先端技術がフル導入されている。①圃場ごとの生産関連データを総合管理する「営農支援システム(アグリノート)」、②ロボットトラクター、③直進アシスト付きの田植え機、④圃場の水管理システム、⑤ドローンによる農薬散布、⑥アシスト機能付きコンバイン、⑦乾燥機の状態を離れた場所でもタブレットで確認できる「乾燥調製システム」、さらには⑧圃場にV字形の溝を掘って種を直播きする「V溝直播栽培」まで試みられている。
岐阜県農政部スマート農業推進係の福井一輝技術主査は、「実証地で3年5作を実現しようとすれば、新たに2人の人手が必要になりますが、今いる営農組合のスタッフ(15人)でも対応できるのがスマート化の真骨頂です」と言う。実際、直進アシスト付き田植え機では、田植えの経験がなかったスタッフが田植え作業を担えた。代掻(しろか)き(※)後の土が凸凹な状態でも、GPS機能を使って真っ直ぐに植え込むのだ。
巣南営農組合や岐阜県の関連機関がコンソーシアムを組んで実証プロジェクトに乗り出したのには、大きく2つの理由がある。まず巣南営農組合の江尾泰之理事は、「圃場が拡大すればするほど手入れなどの問題で1圃場当たりの収穫高(単収)が減るジレンマがあることです。コストをかけず無駄をなくして収量を増やすにはスマート化が不可欠だと考えました」と説明する。
その上で、岐阜農林事務所の酒井貞明・農業普及課長は、「東海地方には経営感覚の優れた大規模な稲作経営が多く、更なる規模拡大や多収米の生産を目指す傾向にあり、実証プロジェクトは当地域の課題に応えるものにもなります」と語る。
もう一つが、輸出用米の栽培であれば国内のコメ消費減少の影響を受けないことだ。多収米を効率よく栽培し、それを輸出すれば収益の拡大と安定化を目指せる。
プロジェクト1年目の2019年、実証圃場などから収穫したコメで、すでに計画の120トンを大きく上回る186トン余りの輸出契約ができている。20年春の決算を待たないと生産コストは確定しないが、60キログラム当たり9000円台の生産費を7000円台に引き下げることを目標にしている。(国内の一般米では平均1万2000円程度)。
※ 「代掻き」……田植えのために、田に水を入れて土を砕いて掻きならす作業。
*画像提供/岐阜県農政部