中国アリババグループの金融子会社、アント・フィナンシャル・サービシズ・グループは、新規利用者にわずか数ドルの融資枠を提供するマイクロレンディング(少額融資)事業を通じ、いつの間にか中国最大級の個人向け融資事業者へと成長した。
この少額融資事業は、「花唄(ファーベイ)」と呼ばれている。花唄とは「気軽に支出する」といった意味だ。4年前に創設された花唄のサービスはもともと、アントのオンライン決済サービスである「支付宝(アリペイ)」の利用者がアリババグループのウェブサイトで買い物する際の借り入れを目的としていた。
その花唄は現在、日用品購入やレストランでの支払い、衣料費、「iPhone(アイフォーン)」新機種の購入などに利用されている。アント元社員らの推計では、中国のアリペイユーザー9億人のうち、半分以上が花唄の口座を開設しているという。
一方、アントの広報担当者は、競争上の理由から具体的な数字を公表できないとしたうえで、この推計については「実際の数字と大きくかけ離れている」としている。
花唄ユーザーの多くは、伝統的なクレジットカードを保有しておらず、その中には銀行系クレジットカードの資格審査をクリアできない者もいる。世界銀行のデータによれば、2017年時点で中国のクレジットカード保有者は人口のわずか5分の1、約2億7800万人にとどまる。また中国人民銀行によると、2019年6月時点でのクレジットカードの発行枚数は7億1100万枚だ。保有者数に比べ発行枚数が多いのは、一部の人々が1人で複数のカードを保有していることなどが理由となっている。
馬雲(ジャック・マー)氏が経営権を握るアントは、世界で最も価値の高い未上場のハイテク新興企業だ。中国の人口の約3分の2に上る膨大な利用者を抱える同社は、代金支払いを円滑化するサービスに加え、投資信託の販売、個人や小規模事業者への短期融資、保険型商品の提供などを手掛けており、独自の信用スコアシステムも持っている。井賢棟(エリック・ジン)最高経営責任者(CEO)は今年9月、アントの顧客10人のうち8人は、5つのサービス分野のうち少なくとも3つを利用していると述べた。
花唄のユーザーの半分近くは30歳以下だ。この年齢層は上の世代に比べて消費にためらいがなく、債務に抵抗感がない。その大半は、信用履歴(クレジットヒストリー)が少なく、現金をほとんど持ち歩かず、タクシー代から電気料金に至るあらゆる支払いを携帯電話で済ませたがる。
アントは、花唄を通じた消費者の借り入れ総額を明らかにしていない。花唄はアリペイのアプリに組み込まれており、回転信用(リボ払い)として機能する。期日までに返済できない場合などを除けば借り手側に利子負担が生じることはない。
花唄の融資の原資は、国内銀行や資産担保証券市場に依存している。金融データ会社ウィンドによれば、今年6月時点では、アント子会社が花唄の融資を担保に発行した債券の残高は3920億元(約6兆500億円)超となっていた。