――筆者のグレッグ・イップはWSJ経済担当チーフコメンテーター
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世界の国際金融センター番付では、ロンドン、ニューヨーク、香港がトップ3の常連だ。3都市はいずれも、国境を越えたビジネスを行う上での金融面、人材面、そして物理的なインフラを誇っており、歴史と文化に根ざした世界に開かれた環境を共有している。
しかし、グローバル化が後退している世界では、これら資産の重要性も低下する。3都市はそれぞれナショナリスト色を強めつつある国の中で、国際主義者の拠点という浮いた存在となっている。
3都市はすべて外国人労働者を引き付ける場所だ。例えば、外国生まれの人口の比率は、3都市とも国全体を大きく上回っている。しかし、米国では移民規制が強まりつつあり、英国でも近い将来そうなりそうだ。中国からの自治権に関する疑念は、外国人居住者にとっての香港の魅力を低下させる可能性がある。ロンドンとニューヨークでは、雇用の伸びが鈍化している。香港はリセッション(景気後退)に陥っている。3都市とも不動産価格が下落しているが、その背景には生活コストの高さや経済的逆風、政治的不透明感がある。
欧州連合(EU)離脱の是非を問う2016年の英国民投票では、ロンドンはイングランドで唯一、残留を支持した地域となった。残留の支持票は60%にも達した。それから3年を経て、分断状態は今も続いている。英国のEU離脱(ブレグジット)プロセスを迅速に完了させると約束してる保守党は、全国規模の世論調査でリードしている。しかしユーガブの調査によれば、ロンドンでは市民の3分の2が、ブレグジットに関する態度が明確でない労働党か、もしくはブレグジットに反対している自由民主党および緑の党を支持している。
英国は、金融や法的アドバイスなどサービス分野の輸出に大きく依存しており、その半分近くをロンドンが担っている。英国が新たな合意のない状態でEUを離脱する場合、サービス輸出は規制面やライセンス面で新たな障壁に直面する可能性がある。物品貿易については、英国が世界貿易機関(WTO)に加盟していることで部分的に保護されるだろう。
金融サービス会社は、ロンドンからEU全域へのサービス提供を可能にする「パスポート権」を失う可能性がある。EUのデジタル単一市場がインターネット税や著作権、プライバシーに関する共通基準を導入していくなか、ロンドンのデジタル産業は新たな壁に直面するかもしれない。サービス業にとっては、英・EU間の自由な往来ができなくなることも脅威だ。シンクタンク「センター・フォー・ロンドン」によると、ロンドンでは情報技術(IT)業や専門的・科学的業務に携わる人々の10%、金融業の12%、宿泊およびフードサービス業の32%を英国以外のEU市民が占めている。