野田佳彦首相は、「分厚い中間層を復活させる」という表現を用いることが多い。残念ながら、今のところその具体的処方箋は描かれていない。
分厚い中間層を復活させることは、非常に困難なことである。これまでの所得分布を見れば、団塊世代のリタイヤと中高年の賃金カットのせいで、勤労者を中核としていた中間層が崩壊する変化が起こってきたことが窺える(図表1参照)。
今後、中間層が薄くなる現象は、高齢化という人口動態によってさらに進む可能性がある。
筆者は、分厚い中間層の復活が困難なことを重々承知したうえで、あえて中間層を増やす計画を考えてみた。
筆者なりの理解では、中間層とは年収400~700万円(構成比28.0%)の所得階層を指すのだろう。厚生労働省「国民生活基礎調査」(2010年)では、単身世帯を含む全世帯の所得の中央値が438万円(2010年)となっている。400~700万円の構成比28.0%を占め、おおむね「中の中」と「中の上」にあたると言える。
過去の中間層は、もっと上位の所得階層であったが、近年の生産年齢人口の高齢化と賃金デフレによって、分布のレンジは中間層が▲100万円程度の下方シフトが起こった。中間層を復活させようと思えば、過去十数年間に「中の下」に移行した人々を「中の中」から「中の上」に格上げすることが必要になる。
年収100~400万円の階層で
所得倍層を推進
具体的に、所得倍増を目指すのは、年収100~400万円の階層の各10%に当たる191万世帯である。この191万世帯は、4864万の総世帯(2010年)の3.92%に相当する。この世帯の平均所得が2倍程度に増えると、年収100~400万円は分布の山が低くなり、400~700万円の分布の山が高くなる(図表2参照)。