「何が始まるのかね。私は総理として知っておかねばならないのだが」

「もうしばらくお待ちください」

 長谷川が会議室の前で立ち止まり、総理に入るよう促した。

 総理は一瞬戸惑った表情を見せたが、村津が頷くと足を踏み入れた。

 明るい会議室の中央に白い紙で造られた模型が置いてある。

「新首都のモデルの一つです」

 長谷川の言葉に総理はゆっくりと近づいて行った。

「これが、我が国の新しい首都となる都市なのか」

 総理は呟くと、あとは無言でテーブル上の模型を見ている。

「あまりにシンプルすぎるとは思わないかね」

 官房長官が長谷川に言った。

「どのような首都を望んでおられましたか」

「つまり――パリやモスクワのような。その国の歴史と文化を感じさせる重厚な都市だ。国民に自国の誇りを呼び覚まし、他国からは羨望の目で見られるきらびやかで華やかな都市だ」

「歴史と文化なら、京都と奈良があります。仙台や鎌倉も歴史ある都市です。文化を持つ都市は日本中に溢れていると思いませんか。ただ、現在では多くの国民がそれらに目を向けようとはしていない。都会の華やかな部分にのみ目が移りがちです。ところで、首都の機能とは何とお考えですか」

「私は発信性だと思っている」

 無言で模型を見つめていた総理が声を出した。

「多くの情報を正確に短時間に、国民と必要な機関に伝えていく。もちろんその情報は国民の代表である議員によって平等な立場で議論され、練り上げられたものだ」

 総理は模型に目を向けたまま言った。