総理は窓の外を眺めていた。

「この状態はもっとひどくなるな」

 総理は呟いた。

 街に落ち着きがなく慌ただしい。そう感じた。通りを行き交う人にいつものゆとりが感じられないのだ。

 特に銀行前に人の流れが多く、人垣が出来ている銀行もある。

「まさか取り付け騒ぎが起きているんじゃないだろうな」

「預金を引き出しに来ている客が多いと聞いています。まだ銀行には十分な現金があります。しかしそれが底をつくと問題が起こるかも知れません」

「このままの状態が続くとそうなるかもしれんな」

 車は六本木に入っていった。

 前を走る車のスピードが落ち、インテリジェントビルの前に止まった。

 総理の一行、3人の警護官を入れて8名はビルの中に入った。警護官の1人は車に残っている。

 ビルに入ると、ほとんど同時にエレベーターが開いて長谷川たちが出てきた。

 長谷川の顔が心持ち緊張している。

 受付の女性たちが驚いた表情で総理たちを見ている。

 警護官1人をロビーに残して、エレベーターで長谷川の事務所の階に上がった。