「そのためにはシンプルで分かりやすい都市が首都に適している」
意外な言葉だった。部屋中の者が総理に注目している。総理の年代での首都のイメージは、官房長官に近いものだと思っていたのだ。
「日本全国、さらに世界に向けて、正確に迅速に情報発信し、また同様に情報を受け入れる機能を有し、自由に議論し、かつ安全な都市が、現在の日本には必要だと思う。国民もそんな都市を求めている」
総理は自信を込めて言いきった。
「そして願わくば、求心性のあるものであってほしい。いや、そうでなくてはならない。国民の心を一つにまとめ上げる都市が必要だ。日本の国民であることを誇りに思える都市だ」
「それは国民が未来に向けて自ら造り上げるものです」
「そうだな」
村津の言葉に総理は呟いた。
「ところで中央の箱型のビルが国会になるわけかね」
「地上37メートル、地下3階のビルです。議事堂は3階分を吹き抜けにして造られます」
「周りの建物は」
「各省庁が入ります。衆参両院の議員会館は、国会メインビルの両翼の建物です。これら中央建物群の周囲に議員宿舎、公務員宿舎、商業施設が広がります」
都市模型では空白の部分だ。
総理は長い時間、その模型を見つめていた。やがて顔を上げ、長谷川から村津に視線を向けた。
「それで、この都市をどこに造るつもりなのかね」
「それは、政府の決定が必要と思います」
「候補は上がっているんだろう。前と同じかね」
「数日中にまとめてお渡しします」
「まとまった段階で閣議にかけなければならない。その前に、閣僚たちにも見てもらわなければならないな」
「これは、あくまで一つのモデルです。このモデルをもとに新首都を造り上げていくのです」
「そうだったな」
総理は呟いて再び首都模型に向き直った。